JIA Bulletin 2008年6月号/COLONNADE 覗いてみました「他人の流儀」
多様な活動、フラットな関係、共働のありかた いわむらかずお 氏
みかんぐみ
聞き手:Bulletin 編集委員

マニュエル・タルディッツ氏、加茂紀和子氏、曽我部昌史氏、竹内昌義氏(右上写真:左から)、4人の共働設計により、住宅から保育園、放送施設、ライブハウス、公共建築など多様な建築設計を中心に、家具、プロダクト、インスタレーションなどのアートプロジェクトも幅広く手掛け、近年のこのような活動を行なう先駆け的なユニットです。いまでも、創造し続け、常に何かを生み出す力を感じさせてくれる存在です。


●株式会社みかんぐみ
 加茂紀和子氏、熊倉洋介氏、曽我部昌史氏、竹内昌義氏、マニュエル・タルディッツ氏の5名にて1995年共同設立。加茂氏、タルディッツ氏はご夫妻。2001年、熊倉氏が個人活動に移行し、現在は4人体制で活動。
■主な作品:
 NHK長野放送会館(1997年)、八代の公民館(1999年)、SHIBUYA-AX(2000年)、八代の保育園(2001年)、ハンガートンネル(2005年)、日本国際博覧会トヨタグループ館(2005年)、横浜の保育園(2006年)、シゴセン(2007年)等。
■主な受賞歴:
 NHK長野放送会館建築設計競技最優秀賞(1995年)、仙台メディアテーク建築設計競技佳作(1995年)、JCDデザイン2001優秀賞(2001年)、住宅建築賞奨励賞(2005年)など、受賞多数。


●みかんぐみ設立の経緯をお話し頂けますか。
 卒業して、それぞれに設計事務所勤務をして数年経ち、その後、各々が独立をしている時期でした。そんな時、大きな規模の建物を設計する場合に、グループとしての必然性を感じていたところ、同窓会としての大学の研究室会がありました。その時の話のなかで、「なんか機会があったら、一緒にコンペをやらない?」と言っていた直後、タイムリーにNHKのコンペがあり、初めて共働で設計を行ないました。その初めての共働設計で、最優秀賞を受賞することになったのです。当初は、プロジェクトごとに結成、解散の設計JVのような形態も考えていましたが、NHKの要請により法人化の必要が生じ、正式にみかんぐみを結成、設計事務所および法人設立となりました。


NHK長野放送会館 (撮影:平賀茂)

●共働設計において、ヒエラルキーのようなものがありますか。また、進め方やルールがあれば教えて下さい。
 NHKコンペの頃から、現在においてもヒエラルキーはないですね。当初から、それぞれが案を持ち寄り、集め、検討し、喧々諤々と話し合いました。プロジェクトは全て、メンバーがフラットな立場で話し合います。初期のころは、メンバー5人で住宅なども打ち合わせを行なっていましたが、3〜4年目以降は担当を決めていくことにしました。ただし、担当はすべての決定権を持つというよりも、お施主さんと他のメンバーを結び、プロジェクトマネージャーとしての役割になります。よって、詳細なディテールなどは担当者に委ねることになりますが、全体のスキームや大きな部分のコンセプトは前述のような話し合いで決まります。みかんぐみ内では、この話し合いを「みかんミーティング」の略称で“MM(エムエム)”と呼んでいます。このMMは、スタッフが多くなった現在は、メンバー4人と、そのプロジェクトのチーフスタッフおよびアシスタントスタッフも参加しています。また、その後の実施設計レベル以降は、担当者以外のメンバーは、細かい意見を指摘することは、ほとんどないですね。その分、基本設計の段階で、しっかりとしたスキームやコンセプトを共働で話し合うことができるのだと思います。


●メンバーは、元々、仲のいい友達だったのですか。
 加茂、竹内、曽我部は、同じ研究室です。そして、加茂とタルディッツは夫婦です。これが仲のいいとなるのかわかりませんが……。(ここで談笑状態となりました。)仲のいいと言うか……、近いですよね。同じ建築教育を受けて、芯のところは共有できるところがあり、建築感が違うということはなかったですね。また、建築というものを、自身のみで入っていくというよりも、もう少し社会的なものとして捉えているところがあり、そういうところで共働ができていると思います。


●建築以外の活動もされていますが……
 そうですね、家具やアートプロジェクトなど、気がつくと建築と言えないものも携わっていました。積極的に働きかけている場合と、参加依頼を受けるという場合があります。また、1997年の住宅特集に「非作家性の時代に」という文章を執筆し、強い作家性の建築だけに依らず、広い視野でいろんなものを受け入れながら、ものを創っていくことがあり得るということを示しました。そして、その頃から建築が一般誌にも取り上げられるようになり、家具やプロダクトとクロスオーバーしてきたところ、それを私たちが言い始めたタイミングと、世の中の動きのタイミングが合ってきたようです。あるものを作る時、そのものを作るだけでなく、それを作る「システム」も創るという前提を、みかんぐみは持っています。チャンスがあれば、なんでも挑戦してみたいと思っています。スタイルや得意分野を固定化せず、風穴を開けたいというスタンスです。

●共働設計において、問題点などもありましたか。
 現在はほとんどありませんが、初期の頃、口論することはありました。あの頃は、時間がたくさんありましたしね。しかし、自分の意見が通らなくても、誰が言った意見かこだわることでもなく、意見を共有することができました。そして、話し合いでは強い口調でも、後に感情的に残るものはありませんでした。


事務所入口ドア前

4人のデスク風景

事務所風景



●これから、建築はどのように変化すると思われますか。
 建築そのものというより、一般の人の意識や評価基準の変化がみられると思います。例えば公共建築において、いままでは「与えられている」という箱ものでしたが、最近は、「自分たちの共有物」という意識で、空間を評価するボキャブラリーを持ち始めていると思います。いままでは建築家のボキャブラリーが突出していたものが、それと近づいてきたのでしょう。

■インタビューを終えて
 インタビューに先立ち、事務所スペースと事務所ビル内の一室にあるリノベーションプロジェクトの「シゴセン」も案内して頂きました。お話にもありましたように、メンバーがフラットな立場で共働されるというのが伝わる雰囲気の方たちでした。本当にきさくにお話しが進んでいて、神経質になりがちな昨今の建築業界と違う大らかさも感じられました。やはり、共働設計(体制)は、システムも大事でしょうが、メンバー(パートナー)そのものが一番の要素だと、当然のことながら感じました。MMから発信される、まだまだ発展していく未完の状態を期待しながら、インタビューを終えさせてもらいました。

〈聞き手:編集委員 中村高淑・池元真克〉


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