JIA Bulletin 2010年4月号/F O R U M 覗いて見ました「他人の流儀」 | |||
松井龍哉氏に「建築−ロボット−建築」を聞く | |||
松井龍哉氏 インタビュー風景(フラワー・ロボティクス社にて) 聞き手:Bulletin編集委員 |
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● 松井さんのデザインされるロボットは、とても美しく、どことなく優雅さを感じさせるフォルムですね。 当初は、ヒューマノイド・ロボットを実際の社会においてどのように使ってよいのかわかりませんでした。でも自分としては何か実際に役に立つことに使いたいと思っていました。ある日マネキンに注目する機会がありました。ショーウィンドウという路へのメディアは、大きな市場として確立しています。そこで環境から学習するロボット=ヒューマノイド・ロボットとマネキンが結びついたのです。人類が自分にとって厳しい環境から逃れるために得ようとする際に知恵が生まれるものとするならば、知恵の副産物が知性です。コンピュータの世界でいうと人工知能がそれにあたります。つまり人工知能にボディをもたせることによってダイナミズムが生まれ、知能ロボットの誕生となるのです。 具体的には、ロボットに労働と報酬という役割を与え、環境から学習するというプログラムを組むことによって人や環境とインタラクションできるロボットをつくり上げました。そして動きに柔らかさを与えて、より精巧で美しいフォルムのロボットに仕上げていきました。このロボットはルイ・ヴィトンが最初の顧客となってくれて、その後ハナエ・モリなどが採用してくれました。 ● ロボットに対する美学は「フラワー・ロボティクス」という社名にも現われているように思います。代表を務めておられるフラワー・ロボティクス株式会社についてお話しいただけるでしょうか。 「フラワー・ロボティクス」は私たちが提唱するロボットデザインを現実社会において実践する法人組織であり、理念を共有する共同体です。小さな企業ですが開発から販売を行なうロボットメーカーです。21世紀の生活構造に重要な影響を与えるだろう「ロボット」を軸に、社会を予測し推察し活動しています。 2007年〜2008年1月、水戸芸術館で創作活動を紹介する展覧会を開催しました。水戸芸術館は現代アートの美術館として知られていますが、当会場において30代で全フロアを使って展覧会を行なうのは僕が初めてということでした。初めは躊躇しましたが、現代アートとは言い換えれば未来や社会へのメッセージ。そこで、ロボットを通じて行なっていること、また社会の中でどういうポジションで仕事を進めているのかを一般の人に見てもらう良い機会になるかもしれないと思い引き受けました。私たちが開発デザインした製品の展示に加えて、入口のところを受付けと仮定し、私たちの理念も展示しました。この展覧会を通じて多くの人にフラワー・ロボティクスのメッセージを伝えることができたと思います。 ● そのメッセージとはどのようなことでしょうか。 ロボットをつくることは、まず組織をつくることだと思っています。そのためには、「共同体のあり方」が重要だと思っています。我々の目指すは「ファブレスメーカー」です。流通を含めた地球規模のそれぞれの専門家とのネットワーク、現代のインディペンデントの人々の集まり、小さなスペシャリストの集団、等々、マーケティングを含めて、どうアッセンブルするのかを常に考えています。 また、「21世紀型産業」という視点を大切にしています。「テクノロジー」とは時代をつくるキーワードです。テクノロジーやサイエンスは、元来、人間の生活を豊かにするために存在するもの。「産業」にいかに貢献することによってその存在意義があるのだと思っています。「ものをつくるということ」=「新しい産業構造をつくること」だと考えています。右肩上がりの社会が終焉した現在、20世紀型の産業構造に対して、21世紀型の産業構造がある。メーカーとして21世紀の新しい企業の姿の在り方があるはずです。成熟した小さな事務所が世界企業になっていく時代がきていると思います。 私たちの創るヒューマノイド・ロボットは、商品として2009年6月から量産体制に入ることができました。またこれまでにも、2009年度グッドデザイン賞(什器部門)、iFデザインアワード(インダストリアルデザイン部門)を受賞することができました。いずれもメーカーとして受賞できたことが嬉しいです。 ● フラワー・ロボティクスでは、ロボット以外にも多様なデザイン活動を行なっていらっしゃいますね。その活動についてもお聞かせください。 弊社では、マーケティングや販売をするShop事業部と開発とデザインを行なうデザインスタジオの二つの事業部があります。デザインスタジオでは自社製品以外の外部クライアントのデザインも受けています。2005−2006年にスターフライヤーという新規航空会社のトータルデザインを行ないました。スターフライヤーは北九州市に所在する航空会社で、ここでのデザインで目指したものは「ローカリティ」ということでした。常々、デザインとはローカリティに依存するものと考えています。ローカリティとは対象となるデザイン行為の背景にあるもの、つまり思想の根源でもあると考えています。機体や機内のインテリアのデザインも行なったのですが、何がそこの都市に暮らしている人の楽しみであり喜びであるのか……というところをデザインとして表現しようと思いました。スターフライヤーという企業が所在するまちの人々の誇りとなるような、そんなデザインを目指したわけです。 Dunhill銀座本店では、ファサードとインテリアのデザインを手掛けました。ファサードのデザインを考えるにあたって、まず銀座中央通りの並びの店舗のファサードをサーベイしました。銀座の街並というと一見整然として見えますが、意外と非常に混沌としています。そこで、原初の美といわれる黄金律を用いてデザインしようと思いました。全体のデザインとしては、まずフレーム(黄金律)があり、その中に生活文化を入れるというコンセプトです。東京・銀座という都市性の中に黄金律という洗練された規律で表現することを試みました。Dunhillというイギリスの生活文化を東京において体現化するという意味付けにおいては、「洗練」ということを非常に意識しました。最終的には、「東京の家=Home」というコンセプトにまとめました。話題になった階段は、構造計画を梅沢良三先生にお願いしました。梅沢氏には丹下事務所時代に何度かお世話になっていました。 ● 様々なデザイン活動を繰り広げていらっしゃる松井さんですが、 最後に今後の展望についてお聞かせください。 現在、携帯電話とつながるロボット〜ポラリス(Polaris:北極星)を開発しています。ポラリスは生活のあらゆる情報をトラッキングします。原広司氏の著書に『機能と様相』という本に影響を受けたコンセプトです。ものにまつわる情報が今後大切になっていくでしょう。生活と情報が実体験として融合する時代が来ているのです。人間とモノと情報をひとつの環境として捉える、広域でものをつくることを考え、未来に何を投げかけていくのかが核になるだろうと思っています。都市や空間にロボットを置いた時、環境と個人との関係性はどのようになってゆくのか……丹下先生からの宿題をいただき20年ほどかかり、「高度情報化社会のデザイン」という考え方がロボットを通じてようやく具現化できそうです。
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■松井龍哉(まつい・たつや)氏プロフィール
1969年東京生まれ。91年日本大学芸術学部卒業後、丹下健三・都市・建築・設計研究所を経て渡仏。科学技術振興事業団にてヒューマノイドロボット「PINO」などのデザインに携わる。 |
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