JIA Bulletin 2013年5月号/覗いてみました他人の流儀 | |||||||||||||
戸沢忠蔵氏に聞く 「ものづくりの環境とスピリット」 |
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戸沢忠蔵氏 聞き手:Bulletin 編集委員 |
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■ 今回は現代の名工、戸沢忠蔵氏が率いる木工家具製作会社ヒノキ工芸の工場を訪問しました。ものづくりに真摯に向き合い、優れた芸術的感性も持ち合わせた戸沢氏が牽引するヒノキ工芸。次代の職人育成にも力を入れている工房は世界水準の高い技術力を誇り、建築家やデザイナー、家具ブランドから圧倒的な信頼を得ています。
規模としては日本では小規模な方です。現在は総勢18名。30人くらいまで入るが、スペースをゆったり使っています。
木材は実際に見に行って選ぶのですか? そうです。南米に見に行ったときは、材木が外に放置されていて油がにじみ出て埃がつき、それを繰り返して真っ黒にコールタールみたいになっていました。全然木目が見えないようなものばかりで、3日
間検品しましたが嫌になって、一週間の予定を途中でやめたなんてこともあります。南米や中国はそうやって大雑把なのですが臨機応変に対応するのが私は好きです。ぱっと見その辺にある木なんかはゴミのように見えるかもしれませんが、お宝がたくさん眠っていて、我々はこういう中からセレクトしています。
■ 職人の体制とものづくりの環境について ここは分業体制なんでしょうか? 分業ではありません。木取りから最後のアッセンブルまで一人で全てを担当します。いわゆる多能工です。経営者なら効率よく分業にしがちですが、やる人はつまらない。自分はそういうのは嫌だったから、
みんなにもそういう方法でやってもらっています。自分が貫いて来た事を若い人達にもやってもらいたい。
■ 突き板部門
次はヒノキ工芸の心臓部を案内します。突き板部門です。
クレームを嫌がってマンションなんかはみんなプリントですよね。 そうですね、このまま行くと本物の木が余ってしまいます。新木場あたりでも材木屋や製材屋さんが無くなっていますし、林業も廃れてしまいます。森林は適当に木を間引かないといけないから、自然の循
環が崩れてしまっている。保護と育成と活用の3つが重要だと思います。みんなクレームやリスクを怖がってプリントを使うから、プリントも勢いを増してどんどん良くなっていくのです。
■2階 工房
2階の工房です。皆さんから非生産的な工場と言われます。パーティションで囲われてるから管理しづらいのですが、作るほうは管理されてたらやりづらいだろうというのが私の考えです。
道具が揃っていて何だかワクワクしますね。 最近は大工さんも道具を使わなくなって来ているようです。プレカットがまさにそうで鐇か鑿や鋸を使わなくなっています。
■ 塗装部門 塗装は最後の仕上げなので大事な工程です。塗装も外注にする所もありますが、我々は完成品にして出そうということでやっています。そうでないと商品の品質管理がコントロールできません。重要な工程なので18人のうち4人をここに充てています。普通は18人いたら2人ではないかと思います。
最近では、私がデザインしたテーブルが、ある家具ブランドからも販売されています。今人気があり売れているそうです。このテーブルを量産するための道具は自分で作りました。1000万円もするNCでもできないような加工ができる道具を、7万円の制作費でつくってしまったようなものです。だから、少し工夫すればできるというのが昔からのものづくりのあり方なのです。ダビンチの時代からのものづくりの原点だと思います。今は機械に使われてしまっているのではないでしょうか。
■ 家具職人の枠を超え、世界を舞台に躍進を続ける戸沢氏。
01 Japan Creative 〜ピーター・マリー・ゴールド× ヒノキ工芸〜
Japan Creative は、日本の技術とデザイナーをマッチングさせて、デザインプロダクトを生み出すプロジェクトで、クリエイターの発掘・育成を通した地域産業および日本のデザインの活性化事業として2011年11月に発足。内藤廣氏が名誉理事をつとめる。
02 シャルロット・ペリアンの幻の家具
日本では2011〜 2012年に鎌倉、広島、目黒を巡回し、現在、仏サンテチェーヌの国際デザインビエンナーレ2013で行われている「シャルロット・ペリアンと日本展」での展示作品。
03 ボキューズ・ドール2013 での木の食器
フランス・リヨンで開催された、フランス料理界で最も権威あるコンクール「ボキューズ・ドール国際料理コンクール」。日本代表に、ホテルブレストンコート総料長 浜田統之氏が選出され、24ヶ国のシェフたちと闘い、見事銅メダル(世界第三位)を受賞。日本人初の表彰台に上がった。総合順位では三位だが、課題のひとつ魚料理においては、第一位のフランスを大きく引き離し、世界一位の得点を獲得した。
浜田氏(マネージャー)は、魚料理の器を戸沢氏に依頼。戸沢氏は、後に‘BENTO’ と称した木箱を制作した。
■ 工場見学のほかに事務所でもいろいろな貴重なお話を実物を見ながら触れながら伺った。仕事の内容とボリュームにより残念ながら今回の誌面ではすべてをご紹介できなかったが、5時間に及ぶお話には、作り手としての真摯な態度と哲学で満ちていた。原寸で実物に対峙しながら製作する姿勢は、建築家のそれとは異なるものの”わくわく感”を生み出すという点ではまったく同一のものであると感じた。(聞き手:土居志朗、市村宏文)
■戸沢 忠蔵 氏プロフィール 1944年青森県生まれ。 |