JIA Bulletin 2014年11月号/覗いてみました他人の流儀

小泉 誠 氏に聞く
「これからのデザイナーの役割」


小泉 誠 氏
聞き手:広報委員

■ものづくりで、いろんな地域にかかわるようになったきっかけをお聞かせください。
 過去をさかのぼれば、柳宗理さんたちが産業や生産者のために、丁寧に地域のことを啓蒙しながらデザイン活動をされていた時代がありました。1980年代くらいになると、つくれば売れる時代になってきてデザインが不要とされたんです。そのあとデザイナーが何をするかと言うときに、産業とはあまり関係ないメディアとしてのデザインみたいなものがあったわけです。そのような変遷があったにもかかわらず、戦後からずっと地域の産業とデザイナーをマッチングするような助成制度事業が存続していて、地域にデザイナーが入っても成果が出にくい時代が現在でも続いているんですね。
 そんな中、1997年頃、宮崎県都城のあるプロジェクトに関わったのですが、我々も初めてのことだったので、先輩方がやっているメディア的なデザインづくりを少しやったところ、失敗と言うか、成果がでなかったんです。我々は有名にするのが目的じゃなくて、使われる生活用具をつくりたいと思ってやったのですが、売れることよりもコンセプトがあるほうが地域に伝わりやすいからと、そのようなものをつくった結果、そのメーカーは(それだけが理由ではなんでしょうが)廃業してしまったんです。結果、その産地も次第に衰退してしまい、僕らは何の役にも立てなかった。その時、これはまずいと思って、そこで考え方ががらっと変わったんです。
 その後、似たような事業をまた別のところでもやらないかといくつか声がかかるようになったのですが、その経験を教訓にしてやっていって次第に成果が出始めると成功事例として次の声がかかるようになり、最近それが増えてきているという状況です。

 


kaico 撮影:村角創一


菜の花研修所 撮影:Nacasa & Partners Inc.

 

■デザインする上で大切にしていること、流儀などをお聞かせください。
 実はモノをきれいにつくるとか、便利に機能的につくるとか、面白い形にするっていうのは、訓練すれば誰にでもできると思っているんです。むしろ、デザインをしていく環境をどうつくっていくのかが重要だと思っています。
 僕らがつくっていきたいのはきちんと持続していくような道具づくりで、それは形になっていくものと同時に、生産していく環境も持続していくということが一番なんです。そこを最もやっていきたい。そのためにも、システムだけじゃなく、精神的な「つくっていきたい」とか、「つくり続けたい」という気持ちをどのようにつくり持続していくのかが大事だと思っていて、その結果、作り手(生産者)が「これはいい道具だね」「これはつくってみたいね」と言ってもらえる道具を考えることが我々の役目で、性能が良く、タフなことに加え、作り手が誇りを持ってつくることが結果的に長く使い続けられる道具になっていくんだと思います。そういう意味で、形へのこだわりや美しさについてはケース・バイ・ケースなんです。だから、人と会う前に絶対に形は考えないようにしているし、工場に行って実際に素材に触るまではイメージも絶対しないようにしています。

 


宮崎椅子製作でのワークショップ

 

■住宅デザインのお話を伺えますか。
 最近、住宅設計っていいなと思うのは、我々が関わる様々な産業ではユーザーの顔が見えないんですが、ふと思うと唯一住宅産業だけがユーザーの顔が見えて物ができているという感じがするんです。つくり手と話をしながらできるし、そこで絶対的な決断が下せるんです。緊張もするし、責任も感じます。工事が始まって監理になれば、もちろんですが現場にもたくさん通います。我々プロダクトをやっているとディテールはせいぜい100くらいなんですが、建築の場合、ディテールはその100倍くらいありますよね。描く線の本数なんかもすごく多くて、その線の1本1本の線を責任を持って描くというのが我々の慎重なところでもあるのですが、線をきちんと見つけ出して丁寧に描くということをやろうとしてますし、監理ではそれをきちんと現場に伝える役目があります。

 


土気の家 撮影:Nacasa & Partners Inc.

 

■今後の抱負についてお聞かせください。
 これまで地域にかかわってきて、全国の地域でいくつか点を打ってきたつもりなのですが、今はそれらをつなぎ始めています。例えばこの器に岐阜の桧の蓋をつけようという具合で、産業同士をつなげてそれが線として結ばれ始めています。
また、ある縁で住宅産業にかかわるようになって、その中で「大工の手」という活動を始めています。きっかけは、近年、大工さんが誇りをもてなくなってるということと、手をかけないでくれっていわれちゃうんですよ。お金がかかるからこんなの削らないでくれって言われる。技術を使わないから技術が継承されなくなってくる。今、我々と同世代以降の職人が少ないんですね。大工さんも同じことになっていると聞いて、それじゃ大工さんの仕事をもう少し目の見えるところにもっていこうと。単純に言うと大工さんが家具をつくるというプロジェクトなんです。大工さんが自分が建てた家の家具をつくることによって、家具と家が繋がって、さらにクライアントは大工さんがつくったんだから大事に使おうと言う気持ちも沸くし、同時に家に対する思いも持ってほしいというのがこのプロジェクトなんです。

 


こいずみ道具店 撮影:Nacasa & Partners Inc.

 

■最後に、小泉さんにとっていいデザインとは、どのようなものでしょうか。
 使い続けたいというより、つくり続けたいと思えるデザインが、いいデザインなのではないかと思います。ただ下手をすると商業的にたくさん売れるからつくり続けたいという人もいるかもしれないから、誇りを持ってつくり続けたいというほうが正しいかもしれないですね。

 

■インタビューを終えて

 小泉さんはとても誠実な方。その誠実さは、他人や作品に対してだけでなく、ご自身にも向けられています。仕事でスケジュールを組むときは、打合せや出張から埋められていくのではなく、まず自分の「デザインする日」を優先して決めるそうです。デザイナーにとってデザインは一番重要な時間なので、スケジュール上の「空いた時間」ではないと。
 プロダクトから住宅まで、これまで多くの洗練された作品をつくられた小泉さん。今その視線は、ものづくりを通じて産業振興や地域貢献へ向けられているという印象を受けました。

〈聞き手:広報委員 八田雅章・杉山英知〉

 

 

■小泉 誠(こいずみ まこと)氏プロフィール

 

1960年生東京生まれ。デザイナーの原兆英・原成光両氏に師事した後、1990年コイズミスタジオ設立。箸置きから建築まで生活に関わる全てのデザインを手掛ける。2003年にはデザインを伝える場として東京の国立市に「こいずみ道具店」を開きリアルなデザイン活動を展開している。2003年「デザインの素」(ラトルズ)出版。2005年ギャラリー間展覧会、同時に「と/to」(TOTO出版)出版。2007年小泉誠展「匣&函」富山県大山地区「木と出会えるまちづくり」委員。2012毎日デザイン賞受賞。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授。

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