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建築ガイド
建築保存物語
建築保存物語(6) 東京大学生産技術研究所

写真と文 兼松紘一郎

我が想う建築家黒川紀章(1)

 国立新美術館のエントランスホールに、台座に乗った模型がある。この地に建っていた「東京大学生産技術研究所・旧歩兵第三連隊兵舎(以下東大生研)」だ。その建築群を取り壊し、コンペで取った黒川紀章・日本設計共同体(JV)による設計によってこの国立新美術館が新築された。

 東大生研は、第一師団経理部の設計により1928年に建てられた鉄筋コンクリート造による地下一階地上三階建で、「中」字型の平面を持つなど、この時代の合理主義建築を表現していて歴史的な評価を得ていた。そして2,26事件の舞台になるなど様々な物語に満ちている。JIAの保存問題委員会委員長を僕の後引き継いだ篠田義男は、この建築群の存続を願って委員会での審議を重ね、2001年3月に保存要望書を所轄する文化庁に提出した。僕は委員会のOBとして篠田と委員会を支えることになったが、この建築を保存改修することによって美術館構築が可能だと判断した。課題は設計者がJIAの有力な会員で、ことに日本設計の副社長がJIAの会長だったという事もあり、提出に際し篠田委員長は特段の配慮をした。だが事が起こる。

 黒川から、私もJIAの会員だ、仲間から弓矢で背中を射られるようなものだと提出取り消しの要請があった。困惑したJIAの専務理事は、要望書はそのままにして「要望」は取り下げるという意のおかしな文書を文化庁に提出した。委員会ではミッションを受けた委員会が提出したものを了解なしに取り消すのは、委員会のみならずJIAの根幹に関わる事態だと危機感を持ち、同時に建築の保存活動の本義を論議するなど会議を繰り返して各自の役割分担を決めた。僕はJIA関東甲信越支部と本部の総会で会場から緊急動議として手を上げ、会員との問題意識を共有することに勤めた。その後篠田はJIAからの要望書提出指針を検討する委員会設置を要請し、篠田と僕は委員として参画、保存要望書提出の基本方針を策定する。

 国立新美術館は2007年1月に開館した。僕はオープニングの黒川紀章建築展で黒川の要請を受け、黒川、川向正人東京理科大教授との鼎談に参画。開館の1年前黒川の代表作「中銀カプセルタワー」の建て替え問題が浮上しその保存に尽力し黒川との信頼関係が生まれたからだ。(文中敬称略・以下次号)

国立新美術館エントランスホール
国立新美術館エントランスホール
保存された東大生研と新美術館
保存された東大生研と新美術館
東大生研
東大生研

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