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建築ガイド
建築保存物語
建築保存物語(17)
東京女子大学東寮、旧体育館(1924年東京杉並区)

写真と文 兼松紘一郎

不条理と闘って

 今では東女のキャンパスを訪れることもなくなったが、深い緑の大樹の中に見える芝生と本館が浮ぶ光景は変わりなく美しい。しかし左手に現れるのは、新築された教師の研究室や教室のある研究棟23号館である。左に芝生を張った小山があり、その先を研究棟の1階に空けられた通路を通って学生が行き来している。小山の処には、暖炉のある談話室が4っもある「社交館」といわれた旧体が建っていたのだ。美しいだけでなく、東女の理念「リベラルアーツ:自由な発想」が想起される豊かな空気感をかもし出した建築だった。想い起こすと「不条理」という一言が浮びあがる。同時に「運動をしたという事実が重要、それが歴史をつくることだ」と宣言し「レ会」を支えた作家永井路子の言葉が響いてくる。2006年12月2日、日本外国特派員協会で行ったシンポジウムが、レ会を中心に建築各界による大きなうねりのような保存運動に繋がっていくことになった。このシンポで僕はコーディネターを勤めたが、藤岡洋保、西澤英和(構造・現関西大教授)と、永井、時枝など東女OGによるパネリストによって構成した。楽しかったのは最後に挨拶に立った山口廣日大名誉教授が、時枝が述べた寮でのストームについて`まいった`と慨嘆、爆笑が起きたことだ。

大学から耐震問題があるので旧体を壊すと表明されたのを受けて、親しい構造家松嶋哲奘に一次診断を依頼、岡田章日大教授に検証してもらって提出、理事長からは丁寧だが「部外者からの支援は不要」と語気の荒い回答を貰ったが、以降老朽化とは言わなくなった。壊す理由が無くなった。

 特記したいのは、森一郎哲学科教授を中心として学内の教師が立ち上がったことだ。2008年6月、教員の過半数を超える69人による「旧体解体再考」要請を行い、以後旧体でシンポを行うなどレ会や外部の有識者とも連携をとって活発な活動を繰り広げ、僕も何度も参加した。解体中止要請のために平野健一郎早大・東大名誉教授と青山学院大教授鈴木博之(東大名誉教授)が理事長と面談した。青学前の喫茶店で固唾をのんで待っていた僕たちに、理事長は著名な二人とディベート、平野と鈴木は話が通じないとただ首を振るだけだった。シンポから8年を経た。鈴木と時枝が故人となり、森教授は東北大へ。旧体のあったことを知らない学生は、これからの社会で大きな役割を担っていくだろう。学生には大先輩レ会による書籍(記録集)を紐解いて欲しいと切に願う。 (文中敬称略)

旧体育館外観
旧体育館外観
旧体育館で慶大生とフォークダンスを楽しむ
旧体育館で慶大生とフォークダンスを楽しむ
花鉢のある2階外通路
花鉢のある2階外通路
談話室の暖炉
談話室の暖炉
談話室の暖炉
談話室の暖炉
2階から見る体育館
2階から見る体育館

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