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建築ガイド
建築保存物語
建築保存物語(22)
愛知県立芸術大学(1966−1971年)−1 

写真と文 兼松紘一郎

愛知長久手の丘陵地を愛でて

 名古屋駅から地下鉄東山線に乗って藤が丘へ、リニモ(磁気浮上式鉄道)に乗り換えて芸大通で降りる。樹々の中の上り坂をぶらぶらと歩いていくと、長久手のこのキャンパス・愛知県立芸術大学のランドマーク、長さが110メートルもある「講義棟」が現れる。1965年、この地を訪れた東京藝術大学教授吉村順三をサポートしてこのキャンパス構築に取り組んだ若き日の奥村昭雄助教授は、恩師吉村の記述、「丘の上から見渡す風景には一軒の人家もみえなかった」を受けて、生き生きとこう述べる。「キャンパスで展開される生活の主要舞台は、建物自体ではなく、その“間の空間”であり、そこでの生活こそキャンパスのドラマの中心でなければならない」。高低のある地形を出来る限り生かして土木工費を圧縮、建築間に間を取って建てられた校舎群は、構造もデザインも意識して統一させていない。だがその一つ一つが魅力に満ちたモダニズム建築の典型。その絶妙な組み合わせによる季節や陽の移り変わりを受けた内外部空間の多彩な変化は、何度来ても新鮮だ。時には坂の途中から右に折れて裏手からキャンパス内に入る。吉村建築の織り成す建築間の「間」を味わい、講義棟に直角する長い外部通路を見てキャンパスの中での自分の居る場所を確認し、ここで学び教える喜びを想うのだ。

 5年をかけて構築された校舎群が建設されてから43年ないし48年を経た。建築の傷んだ個所も多々あるが、世相が変わり、国や県の施策する大学機能の変化や学生たちの気質が変わり、女子学生の増加による機能対応も求められる。 ところが2009年、県は財政の健全化を理由に、県の職員住宅、独身寮の全面撤廃を表明、愛知芸大での対象は女子寮と教職員住宅だった。防音機能を完備した音大マンションなどの無い片田舎の大学で音楽を教える音楽学科の教師はパニックになった。施設内で練習が出来、親が安心して預けられる女子寮が無くなり学部が立ち行かなくなる!これらの状況を受けて法人化したばかりの大学は急遽自前で西側敷地境界に沿って学生寮を建てる。そしてこのキャンパスの在り方を検討する「ビジョン検討委員会」を発足させ、会議を一般市民にも公開した。

 この委員会に、名古屋大学の西澤泰彦准教授(現教授)がDOCOMOMOからの委員として参画、次の段階、名称を「2011年キャンパスマスタープラン作成委員会」と変え、改修実務に関わることになるので建築家の僕にと相談を受け、僕は2012年度から引き継いだ。ところが先述した女子寮と教職員住宅解体が奇妙な事件になった。この県による解体方針を、大学側が策定したとメディアが報道、ビジョン検討委員会に関しても設置趣旨が巧く伝わらず、愛知芸大や吉村順三を慕う東京藝大の卒業生が大学を批判することになる。<この項続く>

講義棟
講義棟
講義棟 2階
講義棟 2階
デッサン棟
デッサン棟
美術学部棟
美術学部棟
地階への階段
地階への階段

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