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建築ガイド
建築保存物語
建築保存物語(23)
愛知県立芸術大学(1966−1971年)−2 

写真と文 兼松紘一郎

建築存続の課題論考を! 

 手元に「ビジョン検討委員会」の委員長を担った長谷高史愛知芸大教授と、外部委員を担った東京藝大名誉教授奥村昭雄を中心とした東京藝大OBとのやりとりをした2009年9月の書簡のコピーがある。意思の疎通が万全とは思えない不信感がにじみ出ていて困惑する。この長谷教授の書簡には`機能が全く不備なものは改築せざるを得ない`との一文が挿入されていた。これを破壊の口実と取るか学生への責任感から出た発言と取るかは受け取る側の立場で変わる。不信感を持った奥村は後に委員を辞任する。ところで、時代の推移を感じ取る音楽学科教師は現状では時代に即した教育がなしえないと、音楽教育の環境改善を強く望んでおり、神田真秋愛知県知事が視察、緊急性があると判断して新音楽棟新設を決め設計を日建設計に発注した。

 委員会には全面改築する意図はなかったが、この建築群の改修には新築と同程度の費用が必要なのに県は財政事情を理由に小学校舎程度の改修予算しか組まないとの懸念から、全面改築と同程度の予算を試算出来る資料作成を日建に依頼した。これに対し日建の担当者は「間の空間」を意識して、吉村思想の反映として「美術の庭」を各学部が取り囲む計画案を提示する。時を経て振り返ると、日建担当者の建築家としての意気込みは理解できるし、新音楽棟を急傾斜地につくることになって、この地の生態系保全への危惧も取りざたされたが、それらは(いい言葉ではないが)反面教師、生態系にも目を向けることになった。改めて思うが何よりも評価したいのは、この委員会を公開したことだ。様々な憶測が飛び交ったものの、この委員会を構築した長谷教授の力量に共感する。

 委員になった僕は、今後の指針として、「オーセンティシティ」(原初性)を考察することが何よりも大切だと述べた。すると音楽学部の教授からそれはなにかと問われる。姫路城や法隆寺を世界遺産に推挙する際奈良会議を開いて、日本の木造建築存続を検証するときの指針となったことなど述べた。ところが東大名誉教授香山壽夫委員から猛反発を受ける。改修に際して建築家理念を組み込まなくては時代に即さないという論理で、僕は猛反発する。振り返るとなかなかの委員会だった。昨2014年、なるほど!日建だと思わせる姿で新音楽棟が竣工した。

 価値観を共有する美術学部の水津功准教授を委員長とした「建築環境評価専門部会」と委員会名を変えて、当初からの谷口元名古屋大名誉教授と、香山教授に代わって構造の宿里勝信名城大教授が委員となって継承。その直後県は、県立の学校を耐震補強する制度を発足させた。すべての吉村建築を存続、だが耐震補強を先行せざるを得なくなった。様々な課題が内在する中で、この校舎群の耐震補強だけに取り組むのはちょっとつらい。が、これもまたいまの時代の課題だ。

音楽学部と棟と音楽棟
音楽学部と棟と音楽棟
講義棟教室
講義棟教室
新音楽棟
新音楽棟
奏楽堂
奏楽堂
渡り廊下
渡り廊下
美術学部アトリエ
美術学部アトリエ

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