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JIA Bulletin 2016年7月号/覗いてみました他人の流儀

荻野寿也氏に聞く
樹形の美しさを生かした庭づくりをしたい

荻野 寿也

荻野 寿也氏
聞き手:長澤徹・八田雅章


―造園家になったきっかけがユニークだそうですね。
 1999年に自宅の設計を建築家の坂本昭さんにお願いしたことがきっかけです。その時に、造園は女性のガーデンデザイナーにお願いしました。僕は庭にいろいろな植物が植えてあるのが楽しくて、いかにもつくったという感じがないほうが好きなのです。でも、お願いした庭にかわいらしい植物も入ってきたので、少しずつ自分の思うような庭に改造していきました。
 その頃家を建てようとしていた友達が、僕の家を見て「こういう家がいいな」と言うので坂本さんを紹介したら、坂本さんが、「庭は荻野さんならできるから、好きなようにやったらいい」と言われ、そこから庭の仕事が少しずつ始まりました。
 それが建築家の目にとまって、造園の仕事の依頼がくるようになりました。そして伊礼智さん、渡辺康さん、彦根アンドレアさん、前田圭介さんたちへと紹介でつながっていきました。

 

―同じ建築家との仕事が長く続いているようです。
 同じ建築家から依頼が続くのは嬉しいですし、一度仕事をさせていただいた建築家が、樹木のことをさらに考えるようになるのも嬉しいですね。
 前田さんの最近の作品はほとんど断面構成を含めて、建物と緑を併せて考えているようです。JIA新人賞を取った「アトリエ・ビスクドール」の緑の見え方はすごく面白かったです。伊礼さんの設計でも緑の使い方が変わってきたと思います。

 

アトリエ・ビスクドール(設計:UID一級建築士事務所)

 

―仕事の仕方、樹木へのこだわりを教えて下さい。
 造園をする前からゴルフ場の造成、メンテナンスの仕事を継続しています。親はもともと建材屋でして、僕は工業高校の建築科を卒業してから建築の現場監督を6年やっていたので、建築は素人というわけではありません。
 造園の仕事は僕が現場で采配しています。設計だけでなく現場にも出てスコップを持って木を植えていますから、立ち位置は職人のほうですね。
 地域の原風景を造園に取り入れていくのが僕のやり方です。例えば周囲に松林があったら、敷地に松を1本入れるだけで、もともとの景色と自然につながっていきます。そのときには境界のようなものは、ないほうがいいですね。
 これまで生産農家は樹木を背丈プラス幹まわりで売っていました。普通であれば「株立ちのシマトネリコ、高さ3.5m」のように注文します。けれども僕はそういう注文をするのではなく、樹形は非常に大事なので必ず自分で確かめに行きます。そこで見つけた片枝が飛んでいたりする樹木を組んでいく楽しさがあります。僕は、幹が太くて動かない木よりも、少しの風で揺れている木のほうが建築に合うし、面白いと思います。
 これまで生産農家はおもに公共用の樹木をつくってきましたが、今は管理が大変だといって公共ではあまり樹木を使いたがりません。そのため生産農家は仕事がなくなって辞めるところも多いようです。
 しかし、僕のまわりでは造園がブームになっています。生産農家と一緒に「こういう木を日陰で育ててほしい、そうすれば柔らかいラインになるでしょう」、「密に育てた背の高いひょろっとした木がほしい」「斜面地でつくったひねった木もいいですね」などと、育て方から考えています。
 枝の張り方は縄張り争いですから、太陽を求めて枝が競争している姿がきれいだと思うのです。

 

造園工事の様子
第35 回ジャパン建材フェア
高岡の家軸組展示(設計:伊礼智、施工:田中工務店、造園:荻野寿也景観設計)

 

―全国各地でお仕事をされていますね。
 関西以外でも造園の仕事があれば、できるかぎり受けるようにしています。現地の造園業者やワークショップメンバーを募り、20〜30人集まって2泊3日で終わらせることもあります。全国に造園業者との横のつながりがあって、有り難いことにうちの造園が面白いらしく、若い造園家がどんどん来てくれます。
 地方の仕事では、メンテナンスが大変でしょうと言われますが、そんなことはないです。施工後は基本的に地元の工務店が家も庭も管理していくことが多いです。工務店の出入りの造園業者に応援に来てもらって、僕たちのやり方を包み隠さず教えています。来週は九州の生産農家が庭のワークショップに来るので、木の組み方を教えることになっています。
 それから、地方にいくと町をずーっと歩いて、植生の調子がいいもの、悪いものを調べますね。樹木の頭がざーっと枯れ落ちている分譲地もありました。それは土が硬いか排水が悪いので、土壌改良したほうがいいとアドバイスすることもあります。雪国だったら庭の木に雪が積もって枝が折れたら折れたでいいと思います。山の風景はそうでしょう。唯一大変なのは落ち葉の時期です。近隣に迷惑がかかるという感覚がなくなればもっといいのですが。でも掃き掃除は時代が変わっても大事なことですね。表のコミュニティーとはそういうことではないでしょうか。それを否定したら樹木を入れられなくなってしまいます。

 

―事務所の体制や仕事の仕方を教えて下さい。
 年間60件、それも一流の建築家と仕事をしていて、すごく勉強になります。スタッフは15名いますが建築学科出身もいます。
 うちの場合は、スタッフを独立させるのではなく、それぞれ得意なジャンルをつくって任せていきます。
 今はプロポーザルやコンペへの参加が多いですね。大変なこともありますが、私たちはコンペの段階から参加したいと思っています。コンペのパースで樹形も組んでいって、木の肌や影までリアルに表現して平面プランにも植栽を入れていきます。最近勝ったコンペでも、造園が他と全然違うと評価していただきました。
 ホームページにも力を入れています。掲載する写真は大事なので、プロのカメラマンに撮ってもらいますが、小さな現場だったら撮影代のほうが高くなることもありますよ。もちろん建築家が依頼したカメラマンから購入することもあります。

 

―日頃意識していることはありますか?
 建築家から見たら、それはやめてというくらい強すぎる石組みをする造園家もいると思います。建築設計者は引き算で極力シンプルに、作った感じをなくしたいと思っているのに、それを台無しにしているものがあります。建築・造園サイドを問わずにどちら側からも、また一般のお客様から見ても良いと思われるようなものづくりが理想です。
 それから、華道にも興味がありますね。女房が華道の先生なので、僕は造園を手がける前からそれをずっと見ています。「そうじゃない、こっちの方がかっこいい」とよくけんかをしていました(笑)。流派をくずしていくのが面白いですね。
 日本庭園では花はあまり取り入れられないと言われるなかで、僕は色花も入れます。かわいらしいとまでいかなくていいですが、色が入ってくるほうがいいと思っています。
 居間に対しての造語ですが、「庭間にわま」も意識しています。近頃はアウトドアがすごく受け入れられていますね。家に帰ってきても、テレビを見るだけではなくて、庭に出て植物に癒やされてほしい。実際そうなってくれたらとても嬉しいです。

 

―印象的な仕事について教えて下さい。
 三井ガーデンホテル京都新町 別邸のような商業施設は、みんなに見てもらえるでしょう。「あそこのホテルは庭がいい」と言われると励みになります。
 ただ、自分としては住宅がいちばん面白いです。住んでいる人に1年を通して見てもらい、次に訪ねたときには、その人がアレンジしているんですね。植物を足したり、植物を株分けして近所に配ったりというような話を聞くと嬉しいです。
 伊礼智さんの「下田の家」は小さい物件ですが、木がすごく効いていますね。また前田圭介さんの「森のすみか」は、建築そのものが庭のようです。このような植え方は、樹木の美しさが分かっていないと設計できないです。きれいな樹形を見せると、雰囲気はがらっと変わってきます。横内敏人さんは、とても庭好きな建築家だと思います。横内さんのパースは全部手描きで、そこに樹木が必ず入っています。それで私に「こんなイメージを描いていますが、荻野さん好きなようにやってください」と言うのです。そんなのできません(笑)。それくらい緻密に描いています。
 今やっているハウスメーカーとの仕事で、分譲地のありかたを変えようとしているものがあり、それは京都近郊の高級住宅地です。そういうところに興味がある客層には、高級なキッチンを入れてもなかなか売れないのです。そこで緑と日常生活を過ごすため、庭間にわまのある空間に取り組んでいます。

 

三井ガーデンホテル京都新町 別邸(設計:竹中工務店)

下田の家(設計:伊礼智)

森のすみか(設計:UID一級建築士事務所/前田圭介)

 

―造園の立場から、建築家に望むことはありますか。
 開口についてもう少し考えた方がいいと思います。多くは外光のためと外からの視線を気にした開け方になっています。特にハウスメーカーの住宅は開口が多いでしょう。伊礼さんはいかに開口を減らしていくのかを考えていて、しかもそれが効いていると思います。
 それから、今は気密性とよく言われますが、僕は家の中まで風を入れるべきだと思います。ちょっとやんちゃな人の設計の方が、住んでみたい建築になっているように感じます。
 マンションでは絶対できない断面構成と、緑の取り入れ方を上手くしたら、一軒家を建てたいと思う人が増えるのではないでしょうか。

 

インタビュー:平成28年3月18日 東京ビッグサイトにて

 

 

 

荻野 寿也(おぎの としや) プロフィール

造園家
荻野寿也景観設計/荻野建材株式会社
代表取締役

1960年
大阪生まれ
1989年
家業である荻野建材に入社。同時に緑化部を設立。
ゴルフ場改造工事を機に、樹木、芝生を研究する。
1999年
自宅アトリエが第10回みどりの景観賞(大阪施設緑化賞)を受賞。以降独学で造園を学ぶ。
2006年
設計部門として荻野寿也景観設計を設立。
2013年
長野県松本市景観賞受賞。
原風景再生をテーマに造園設計・施工を手がける。建築家との協働多数。

 

 

 

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