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JIA Bulletin 2017年アニュアル号/覗いてみました他人の流儀

黒田 草臣(くろだ くさおみ)氏に聞く
「見て触れて使うことで
焼き物の良さを感じてもらいたい」

黒田 草臣氏

黒田 草臣氏


 「しぶや黒田陶苑」を経営しながら、陶芸家の発掘や展覧会のプロデュース、また陶芸評論など、幅広く活躍されている黒田草臣さん。穏やかにお話しされる黒田さんですが、焼き物に対する思いは熱く、聞くものの心を惹きつけます。今回は、黒田さんが4年前に京橋にオープンした、北大路魯山人作品を並べる「魯卿あん」で、焼き物の魅力やご自身のこだわりなどをお話しいただきました。(聞き手:Bulletin 編集委員)


―陶器のお店を始めたきっかけを教えてください。

 父は愛知県の宮大工兼農家に生まれましたが、次男坊でしたので小学校卒業と同時に東京の陶器問屋へ丁稚奉公に出されました。昭和10年に日本橋で独立して黒田陶苑を立ち上げ、魯山人作品など割烹食器を主に商っておりました。子どもの頃から焼き物に囲まれて育った私は、自然と焼き物が好きになったようです。
 私が自分の店を持ったのは昭和44年のこと。大学を卒業してから、一時商社に勤めましたが、いつかは自分の好きなものを並べた陶芸の店をやりたいと思っていたので、26歳の時、数寄屋橋の地下街に小さな店を構えました。

―当時は主に何を扱っていたのでしょうか。

 3坪の狭い店でしたが、家賃を払うのが大変でしたよ。そこで日常一番使われていた湯呑を350種類ほど揃え、陳列棚を特注しました。焼き物は使うと味が出て面白いことを知ってもらおうと、使うほどに変化してくる汲出茶碗を選んで使い、お客様にお茶を煎れてお出ししました。地方で探した個性的な陶芸家に特注した湯呑の評判がよく、遠くからもお客様が来てくださいました。
 私はただ焼き物が好きなだけです。売れそうなものを仕入れるのではなく、自分が好きなもの並べて私と好みが同じお客様に手に取って見ていただく。口下手な私を器がその良さを語って補ってくれればいいと思っていました。湯呑以外の陶芸品も扱うようになり、翌年から百貨店などで展示会や個展を開催しはじめました。

―北大路魯山人と交流があったそうですね。

 父がまだ修業中だった昭和9年頃、北大路魯山人の料亭「星岡茶寮」で書道の講演をしていました。書道を習っていた父は聴講しに行って魯山人と知り合い、その後、意気投合したようで親しくさせていただきました。
 昭和10年に独立した父は店舗併用住宅の二階で暮らしていましたが、子どもが多くなり手狭になったので、魯山人の勧めで第二参考館に移り住み、しばらく魯山人と一緒に暮らしていました。その後、魯山人に紹介された民家を移築し、私はそこで生まれ育ちました。魯山人の家から歩いて5、6分のところです。叔父家族が登窯の向かいに住んでいたので、子どもの頃からよく遊びに行き、魯山人のことを「おじさん」と呼んでいたのです。
 "自然は芸術の極致、美の最高である"といいながら芸術を創り出した魯山人は、邸内にたくさんの樹木を育てていました。草木だけでなく虫1匹にも愛情を注いだのです。ある日、雪柳の小花を竹竿で掃って遊んでいたら、魯山人に見つかってしまい怒られると覚悟しましたが、「花にも命があるのだよ。かわいそうじゃないか」と優しく諭されました。"自然美礼賛"の魯山人は自然と芸術を共有することを大事にする方でした。
 この魯山人の美意識が好きで、私の憧れでもあり大きな影響を与えてくれました。焼き物は、自然界の素材を生かす作品を創る陶芸家が私は好きです。

―どのように自分の好きな作家や焼き物を見つけているのでしょうか。

 今は車でどこにでも気軽に行けますし、雑誌やテレビなどのメディアでも陶芸家の情報もわかります。私が探した50年前は有名な陶芸家を除いて何も情報がありません。焼き物の里へ行ってどこかに真の陶芸家は、世に出ていない作家はいないかと、とりあえず煙突を探しました。
 薪を燃料にしている人は、焼成方法だけでなく土などの素材や窯の構造にこだわりがあります。話していても楽しい。そういう人たちは公募展に出品する気がない人が多いので、自分から探しに行って出会うしかありません。互いに意気投合すれば、ともに切磋琢磨していこうと持ち掛けました。とにかく価値観が同じ陶芸家と一緒に作品を創っていきたいという一心でした。

―どのような焼き物がお好きですか。

 焼き物には、焼き締めのF器せっき、釉薬を掛ける陶器、それから石のものの磁器の3種類があります。それぞれ好きですが、焼き物の原点は焼き締めだと思います。とくに無釉の備前焼にはその魅力がありますね。


京橋「魯卿あん」の店内
備前手桶花入や掛軸など
北大路魯山人の作品

―備前焼の特徴を教えていただけますでしょうか。

 備前焼は通常1週間から10日、交代で夜中も赤松の薪をくべて焚かなくてはなりません。備前の土は鉄分が多いため火に弱いので急いで焼こうとすると中に空気が入ってしまい、お煎餅がぷくっと膨れたような火ぶくれを起したり、焼き傷が出やすいのです。そのためゆっくりと時間をかけて焼いて、最後の攻め焚きで1200度にまで上げます。
 薪だけで焼いていた備前焼ですが、今はプロパンガスに頼ることが多く、最後に少しだけ薪を入れるようなことが多いようですが、最初から薪で焼くことが大切で、それが気品や重厚さを与えてくれます。胡麻・焦げ・緋色など、ひとつとして同じものはできないのも備前焼の面白さです。
 備前焼には素材となる「土」と燃料の「赤松」だけ、それに薪で焼成することが使命です。土を選び、土つくりをすることが、その作品の「品格」を創り出します。他の焼き物よりも窯出には一喜一憂します。こだわりを持った陶芸家が作った作品、私はそういう備前焼本来の面白さをお客様に伝えたいと思います。

―昔と今では作り方も変わってきているのですね。

 昔は土を探して、水車で搗いたりして粘土を作り、それを自ら築いた窯で薪を燃料に試験焼しました。今では業者の方が失敗なく作ることができる粘土や釉を通販しています。窯もできたものを買えます。
 陶芸家になるにはいろいろな道があって、そのひとつが大学などや窯業試験場などです。そこで学ぶのが悪いわけではありませんが、あこがれる陶芸家の門を叩いて修業に出て、苦労に克って陶の道を極めてほしいです。
 大学は材料屋と提携しているところが多く、みんなそれを買って作ります。そうすると、独立しても同じものを使うようになります。でもこだわりを持った人は、 土を探すところから始めています。土づくりは非常に手間がかかりますが、それを楽しみにされているかどうかで作品のもつ深味が違うと思います。
 昔は「1 焼き、2 土、3 つくり」と陶工はいいますが、今は「つくり」が優先してしまうようです。「土がモノを創らせる」というのが本来の焼き物の個性だと思うのですが。

―改めて焼き物の魅力は何でしょうか。

 「用の美」と言うように、"美"を感じながら丈夫で使えないと意味がありません。焼き物の面白さは、使うほどに表情が変わってくるところです。「侘び寂び」と言いますが、国宝になっている「喜左衛門」や「卯花墻うのはながき」など多くの人々に使われてきたことで、私たちの五感を満たす温かみや表情の豊かさが生まれてきたのだと思います。備前の徳利は酒がうまいと江戸時代から言われていましたが、ビールもうまいし、水もうまくなる。肌触りも変わってくるのです。これは使わないとわかりません。
 魯山人は「器は料理のキモノだ」と言いました。まさに良い器に料理を盛ると、料理と器は互いに輝きます。よりおいしく料理を楽しめることでしょう。
 今はインターネットで焼き物を買えますが、焼き物は見て触らないとその肌触り、重さ、バランスはわかりません。実際に手で触れて、本当に好きだと思えるものに出会ってもらいたいと思います。

―貴重なお話をいただき、ありがとうございました。

 

インタビュー: 2017 年3月11 日 京橋 魯卿あんにて
聞き手:浦 絵美・八田雅章

 

 

 

■黒田草臣(くろだ くさおみ)氏プロフィール

渋谷(株)「黒田陶苑」代表取締役

1943年神奈川県鎌倉市生まれ
明治学院大学経済学部卒業。
50年にわたり陶業に携わり、「北大路魯山人展」「大備前展」などの展示会、個展を数多く企画プロデュース。
著書に『美と食の天才 魯山人』『魯山人おじさんに学んだこと』『名匠と名品の陶芸史』(講談社)、『現代日本の陶芸家125人』(小学館)、『とことん備前』(光芸出版)、『備前焼の魅力探求』(双葉社)ほか。

 

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