建築家は施主の「夢」を
「かたち」にする仕事をしています。
- 建築家は、建築主の信頼を得なければその仕事を行うことができません。
- 建築家は、その信頼に応えるために、高い技術と能力を身に付けるための研鑽を積んでいます。また自由で独立した職業人としての立場を確保するために、建築主からの報酬以外の経済的利益を受けません。
- 建築家は、建築の仕事をとおして、ひとつの建築だけでなく、優れた生活環境づくりを行い、社会の信頼に応えられるよう努力する義務を負っています。
なぜ建築家が必要か
家を家を建てようとするとき、建築家に設計監理を依頼する方はまだ少ないようです。確かに建築家に頼まなくても、工務店に相談すれば簡単な図面を引いて工事をしてくれるし、ハウスメーカーの展示場へ行けば実物を見て選ぶこともできます。それなら設計監理料というお金を費やしてまで建築家に頼む必要はないだろう。こう考えて敬遠しているのではないでしょうか。
しかし、それならなぜ、少数とはいえ建築家に依頼される方々がいらっしゃるのでしょう? それは本当に自分にシックリと合う家を望むからでしょう。「自分にシックリと合う家」を得ることは昔よりずっと難しくなりました。それはライフスタイルや価値観が多様化したからです。昔の日本の家はよく似ていました。職業や経済的階層による差や地域による差はありましたが、同じ地域で似たような職業なら、家のつくりも似ていたので、自分の体験から親や友人の家を思い出してアレンジすれば、大工さんに相談するだけで足りたわけです。
しかし現在では、たとえ隣に住む人や会社で机を並べている同僚ですら、理想とするライフスタイルや価値観が異なります。自分の暮らしにこだわる人には建築家が必要なのではないでしょうか。
「分かりにくい差」こそが住み心地を決める
既製服が多くの人たちにそこそこ馴染むように、ハウスメーカーの住宅や建売住宅に、満足できると感じている方も多いかもしれません。
しかし、住まいに敏感な方がメーカーの住宅に満足できないことも確かです。それは、これらは商品の宿命として、一般的多数のニーズに応じること、いわば最大公約数を満たすことを目指しているからです。それらは多種多様に見えても、その差は上中並、あるいは和定食と洋定食という風に分かりやすい違いで差別化したものです。乗用車が、見た目が違ってもエンジンの種類はたいして違わないように、基本仕様とオプションの組み合わせに過ぎません。
個性的なライフスタイルを望む方にとっての住み心地というのは、単に窓の形や屋根や壁の色などの「分かりやすい差」よりも、空間の拡がりや自然光の入り方、モノの質感などの「分かりにくい差」で決まるものです。
こうしたことは、建て主さんにはなかなか言葉で言い表せないことですが、それを打ち合わせの中から汲み取って、「分かりにくい差」を実現していくのが建築家の仕事なのです。
建築家とは施工から独立した立場
建築家は、単に図面が引ける人ではありません。このことが日本ではとくに分かり難くなっています。日本には「建築士」という資格があって「建築家」と紛らわしいからです。「建築士」は法規や技術の知識を保証する国家資格ですが、すべての建築士が「建築家」であるわけではありません。設計はせずに、役所や建設会社の施工管理部、教育機関などで働いている建築士の方もたくさんいます。「建築家」とは、施工業者から独立して設計と工事監理を行ない、建て主さんからのみ報酬を受ける人です。
建築家は計画する建物をまず図面で表わし、それを実現させるわけですが、その過程で、工事費や工事内容が適正かどうかを監理します。これは施工業者の下ではできないことです。
建築のアマチュアである建て主さんがプロである施工業者と契約する場合に、「建築家」はプロとして建て主を守る職業だ、と言ってもよいでしょう。このことは住宅を建てる際には重要です。企業では社内に専門知識を持つ人がいますが、住宅の建て主は、ほとんどの場合そうした知識を持たない個人だからです。
建築家は「イエスマン」ではない
建築家に依頼する方が少数にとどまる理由はもう一つあります。建築家に依頼することは、金銭的な面だけではなく、時間的にも負担を要し、平たく言えばけっこう面倒くさいことだからです。建築家はいつもハイハイと言うことを聞くとは限らず異論を唱えることがあります。それはなぜでしょう。 もし、設計を早く進めることを優先するなら、イエスマンでいる方が楽で、議論をすれば建築家自身の時間も費やされます。それなのに意見を言うのは、その場限りの円滑さよりも最終的な結果、つまり建った家の真の住み心地を共に喜びたいからです。
もちろんハウスメーカーや工務店所属の良心的で誠意のある設計者もいますが、意見を言う度合いはずっと少ないでしょう。工事まで請け負う会社では、設計は工事を受注するための営業手段としての性格のものなので、なるぺく手間を掛けずに本来の利潤の源である工事に移ったほうがいいわけです。ですから、どうしてもイエスマンになりがちです。
建築家に設計を依頼することは、打ち合わせで議論を重ねることです。それが嫌なら建築家に依頼しないほうがいいかもしれません。しかし、もし自分にシックリ合った家を建てたいと思い、そのための努力を惜しまない覚悟があれば、建築家と議論することは、むしろ楽しみに変わります。あなたはその中で、これまで言葉にならず自覚していなかった人生観がしだいに形になっていくのを体験し、ほんとうの自分を発見するでしょう。
大切なのは「相性」がいいこと
自分にシックリ合った家を建てることは、自分の人生観を問い直すことで、心ある建築家はその手助けをしたいと考えています。
建築には唯一の正解というものがなく、一つの答えを選択するのは、建て主と建築家の人生観にかかっています。建築家のほうにも個性があり、人によって言うことも異なるでしょう。もちろん建築家はプロですから自分の個性をかたくなに主張するわけではなく、住み手の個性に重ね合わせようと努めます。しかしそれでも、誰でも同じというわけにはいかないのは当然なことです。
だから建築家に設計を頼む場合の大切なことは「誰を選ぶか」ということです。建て主さんと建築家は、必ずしも同じ人生観を持つわけではなく、だからこそ設計で議論も生じるのですが、そこには何か響き合うものがなくてはなりません。つまり建て主さんにとって重要なのは、建築家のデザインの傾向だけでなく、人間としての「相性」がいいことです。
そうであってこそ、議論が喧嘩にならず、信頼を基礎にして互いを尊重し合う人間同士の会話として成立するわけです。逆に言えば、全く肌の合わない建築家に設計を依頼することほど不幸でくたびれることはないと思います。
建築家と「お見合い」をしてみる
では、どうすれば自分と肌の合う建築家に会えるでしょう。それはそんなに難しい事ではありません。雑誌やインターネットなどで(あるいは街で見かけた家でもいいのです)何か心に響くものを感じる住宅があったら、その設計者の事務所を訪ねてください。建築家は、面談してすぐに仕事を依頼されるとは期待していません。ですから、自分に合った建築家を捜している方が、いわば「お見合い」を求めても、決して拒みませんし、具体的な作業を頼むのではなく(たとえば敷地を見に行く、役所で規制を調べる、計画案を考える、といったことがなく)1時間ほど話し合うだけなら、相談料を請求することもないはずです。
また「小さな家だから」「予算が少ないから」建築家には相手にされないだろうと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、そういう心配は全く無用です。「その予算ではその規模の家は無理です」と言われることもあるでしょうが、それは専門家の判断を伝えることで、あなたの計画を軽視しているわけではありません。限られたお金の効果的な使い道を考えるのが建築家の仕事ですから、遠慮することはなく、自分の予算内でできることを知る意味でも建築家に会うメリットはあります。
こうして建築家を捜すのもけっこうくたびれるかもしれません。でもそれは他でもないあなた自身の幸せを求める道なのです。その努力を回避して、向こうから売り込んでくる自称建築家や、たまたま紹介された建築家の個性をよく見極めずに依頼して、その結果がうまくいかなくても、それはあなたの責任です。建築家は門戸を開きつつ、自分で売り込むのではなくあなたが訪れるのを待っているのです。
建築家は自分を選んでほしいのであり、選ぶのはあなたです。建築家の選択は努力を要しますが、もし自分と肌の合う建築家と出会い、一緒に建築を創っていければ、それはおそらく、この世で一番ぜいたくで、かつ楽しいことでしょう。
建築家の業務
●はじめに
◎ 調査・企画業務
建築の希望があっても、すぐに設計にかかるわけにはいきません。なぜなら建築はたくさんの法律や利害関係に囲まれています。はじめに調査・企画業務委託契約を交わし、さまざまな情報を集め、また現地調査や行政との打合せなどを行い、報告書の作成などを行います。
◎ 建築設計・監理業務
建築家は、建築主とさらに打合せを重ねて、お互いに信頼できるパートナーであることを確認したうえで、業務と契約についての説明を行い、建築設計監理業務委託契約を交わします。これらの業務は、おおむね次の3つに分けられます。
●基本設計業務
建築家は建築主の希望をできる限り実現しながら、安全性や快適性、近隣の町並みや環境などに配慮して構想を練っていきます。そして、建築の規模、かたちを決定し、基本設計図書をまとめます。
●実施設計業務
建築家は基本設計の構想をもとにさらに建築主と打ちあわせを重ね、詳細な図面や仕様書などを作成していきます。こうして作成された設計図書により見積りが行われ、工事請負契約の根拠となります。
●監理業務
建築家は見積書をチェックしたり建築主に施工者選びのアドバイスをします。また工事が始まると建築主に代わって、適正に工事が行われているかを監理します。工事が完成したときは三者が立会って検査を行ない、建築家は建築主に業務が完了したことを報告し、承諾を得ます。
出会いから建物の完成までをとおして、建築主と建築家は互いに信頼を得て、ともに「夢」を「かたち」に変えていきます。また、建築家と建築主の関係は、建築の完成で終わるわけではなく、アフターケアなどの業務を通して、新しい生活を創ることに協力していきます。
建築家の報酬
●基本的な考え方
建築家の仕事は、建築を実現することで得られるさまざまな価値を生み出すことです。建築家の仕事に対する報酬は、決まった基準がありません。これは、報酬とは、仕事を依頼する側と、それを引き受ける側の、お互いの合意にもとづくという考え方によります。
このことは、依頼される皆さんにとって、分かりにくい部分なのですが、一般的に使われている算出方法をご紹介しますので、参考にして下さい。
一般的によく使われる報酬額の算出方法
(1)工事費の総額に対する割合で決める方法
わが国で長い間使われている方法で、工事費総額の何パーセントというように報酬額を決めます。料率の数値は、建物の用途や規模・設計の難易度、業務の内容などによって異なります。
(2)単位床面積あたりの金額で決める方法
建物の床面積に一定金額を掛けて報酬額を決めます。掛ける金額は、一律ではなく、建物の用途や規模・設計の難易度、業務の内容などによって異なります。
(3)国土交通省告示98号による方法
国が定めたガイドラインによる算出方法です。仕事に要する延べ日数から「人件費・経費と、技術料」を積み上げる実費加算方式と、床面積から延べ日数を見積もり「人件費」と「経費」を算出し、「技術料」を加える略算方式の2通りがあります。 (技術料とは、設計等の業務において発揮される技術力、創造力などの対価として支払われる費用のこと)
このような方法があり、工事費に対する料率や1日あたりの金額、面積あたりの金額、は、それぞれの建築家が独自に決めています。報酬は、仕事の内容に準ずるもの。依頼する業務の内容を確認した上で取り決めることが大切です。