学校建築研究会 報告
第 1 回 複合化・再編から生まれる学校建築の新たな価値
日 時 : 9月3日(月) 開催
場 所 : 横浜市開港記念会館 9号室 (横浜市中区本町1丁目6番地)
講 師 : 倉斗 綾子氏 (千葉工業大学准教授)
経 歴 : 東京都立大学大学院工学研究科 博士課程修了 博士(工学)
文部科学省 学校施設の在り方に関する調査研究協力者会議 学校施設と他の公共 施設等との複合化検討部会,学校施設の在り方に関する調査研究協力者会議 小中 一貫教育推進のための学校施設部会等委員歴任。 秦野市公共施設再配置計画検討委員会、さいたま市 公共施設マネジメント会議検 討委員会、横浜市公共施設のあり方検討委員会委員など自治体での公共施設マネジ メントに関する委員を務めている。
司会・柳澤:開会挨拶
小泉代表 : 趣旨説明
何故学校建築か?高度経済成長時に建てられた学校の建て替え時期。今迄と同じで良いのか?
縮小する社会の中で、よりポジティブな形で考えることはできないか?
日々使う建物であり、避難時にも使える建物でもあり、持続可能性もあわせて考えたい。
ここでの議論を今後に活かして頂ければと思う。
司会・柳澤:講師紹介
倉斗:(講演開始)
公共施設マネージメントの状況
いつどのように建て替えていくかは自治体の課題である。
先進自治体秦野市、平成に入ると人口は横ばいだが、生産年齢人口は減少。
40年間の維持管理費+建て替え必要費=72400m2面積削減しないと維持できない。
公共施設の66%が学校施設(公立幼稚園+小学校+中学校)なので、学校中心の再編が必要。
1. 新たな公共施設整備は行わない。
2. 既存公共施設の更新は出来る限り機能維持、優先順位をつけて大幅削減。
3. 優先順位の低い施設は、全て統廃合の対象とし、跡地を売却等。
4. 全て一元的に管理。
義務教育施設と地域施設の複合化、15のコミュニティー中心に施設再編。
公設民営方式は断念、義務教育施設の老朽化対策を先行。老朽化した小規模施設は無償譲渡開始。
見えてきた課題:法や制度の整備や調整
なぜ「学校を拠点とした・・・」なのか?
全国的に見ても、旧耐震基準の時代に建て替えられた老朽化施設に学校教育施設が多い。
全国的にも公共施設の4〜6割が学校施設。また小規模校が増えている。
広島県のある地域では,統廃合しても75%が小規模校のままだったという研究もある
国は,H16年から学校運営協議会制度(コミュニティースクール)を推進している。
学習環境の向上に資する学校施設の複合化。
複合化は学校長の負担が増えることにつながる?と思われている。
学校を活用するメリット、巨大な容積、広大な校庭、体育館、プール等の付帯設備、
コミュニティーからのアクセス、認知度No1。
課題を効果に余裕教室の利活用
品川区の事例:三木小学校に西品川保育園の分室を設ける。プレスクール的な役割も担うことになる。
ほとんど既存のまま。トイレは幼児向けにカスタマイズ。ただし、消防法規が難しい。
足立区の事例:子育て支援施設に転用。
横浜市の事例:霧が丘、有機的につながる多世代交流の場。
地域ケアプラザ、コミュニティーハウス、防災備蓄庫、防災活動拠点、インタナショナルスクールの複合施設。入り口を完全に分離している。
バリアフリー化、オープンスペース化、ホール化。
温熱環境に問題あり。廊下にも冷房必要。駐輪場の設置は必須。
下関市立豊北中学校:上野さんと共同。図書室、ラウンジ、ギャラリーをシェアして、
地域施設として開かれた学校。
まちづくりの拠点としての学校
戸田市立芦原小学校、スロープで2階に上がる。2階中庭スペースあり。
1階は生涯学習施設、喫茶室、低学年の教室。3階は高学年の教室。
立川市立第一小学校、柴崎公民館、柴崎図書館。上下足の管理が課題。
渋谷本町学園、小学校と中学校を統合して一貫校に。
スケールメリットを活かし、体育施設を充実。温水プール、アリーナ系施設を地域に開放している。
地域の防災拠点、大きな防災倉庫あり。
わくわくする公共施設再編とするために・・・
公共施設の再編は「統廃合」ではない。新たな関係づくり。新たな公共施設づくりの好機。
公共施設再編・学校複合化の課題
1. 管轄・所轄のすみわけ
2. 法制度に沿った整理
3. セキュリティー、交流、安心、安全
思い込みの解消、全責任を学校長?共に過ごすことで生み出されるメリットの創出。
ワークショップの実施事例1:与野本町小学校建替/さいたま市
ロールプレイングWSが有効
ワークショップの実施事例2:集約跡施設の利活用/習志野市
高校生ファシリテーター養成講座/牧の原市の取り込み
グラフィックレコーディングなど、ファシリテートスキルの向上
陸前高田市立高田東中学校/大屋根/希望の木/休める場所がほしいということがわかる。
今後、足す複合化ではなく、混ぜる複合化が良いと思っている。
公共施設再編を新しい色を創り出す機会と考える。
これからの世代のために私たちが出来ること
明るい将来、わくわくする未来を見せること、そのために我々がそれを見ること。
倉斗:(講演終了)
司会・柳澤:質疑応答
横浜市営繕・加藤:複合化の時間軸をどのように考えているか?
倉斗:自治体によって違いがある。建物の状況によって既存活用か建て替えかも変わる?そもそも縮小を前提にして、減りっぱなしで良いのか?といった話もある。
小泉:機能複合をはかるにあたって建築が持つべき性能も違う。時間が経つにつれ社会的なスタンダードも変わって行く。どうあるべき?
倉斗:他の公共施設の仕様に合わせて、学校建築のスペックを上げていくべき。スケルトンインフィルの考え方は有効だが、デザインは後回しな感じになりかねない。それでよいのか?
飯田:秦野市が公設民営化を断念した理由は?
倉斗:中学校に公民館を入れたかったが、管轄を調整が難しかったと聞いている。
文科省に法整備を求めた経緯もある。一方、萱田南小学校はPFIで実現し、成功した例もある。プールを民営化した場合、プールの授業をインストラクターが教えてくれる。民営化して、こんなに楽になるのか、といった学校長の感想がある。
田井(幹):プログラムの解体、枠組みをどう崩せるか考えた場合、何が一番の壁となるのか?
倉斗:一番は生徒の安心安全。学校側の管理責任。
田井(勝):参加型の複合化はできてきているのか?
倉斗:芦原小学校はその事例。市民を本気にさせるのが大事。
小泉:市民を本気にさせる役割を担うのは、誰なのか?
倉斗:まず、行政がファシリテーションをやるのではダメ。客観的な立場の人が必要。学生が加わるのも有効。実際にはファシリテーターの人材が足りない。
田井(勝):公共施設マネージメントはどこから依頼がくるのか?
倉斗:資産管理課が多い。
飯田:横浜市は教育委員会の力が強いが、教育委員会は出て来ないのか?
倉斗:出て来ない自治体も多い。秦野市は教育長か当初から前向きだった。
横浜市教育委員会・杉谷:500校のうち384校を建て替える基本方針作成。
人口が増えているエリアと減っているエリアがあるので、作り方が違う。
地域の方々の話を聞きたいので、方針にも盛り込んでいる。
昨年は地域の方に座長となってもらい、ワークショップとはいわないが、懇談会形式で行った。意見をみんなに出してもらいながらコンセプトをつくり、設計事務所に絵を書いてもらっている。
昨年3校すすめたが、教育委員会の負担は大きかった。
倉斗:さいたま市では、ワークショップに別の地域の方も入れている。別の視点が入ってくることも大事。
黒田:財政的な視点から統廃合、学区、セキュリティーについて意見が出ているか?
横浜市教育委員会・杉谷さん:教育効果が第一優先。小規模校はカリキュラム的に課題。
セキュリティーに関しては、学校と公民館の複合化が、横浜市内ですでに80数件あるので、問題ないのでは。数が増えた時には課題になるかも。
安田:既存校舎を保育園等にする場合、ハードの面で限られる場合があるのでは?
倉斗:実際はメリットの方が多い。
小山:そもそも躯体が老朽化している事例もあるのでは
倉斗:改修のつもりだったが、調査をしてみたらだめだったという例もある。
小泉:維持管理コストをきちんとかけることも重要
中村:複合化して良い影響をもたらした事例は?
倉斗:ワークショップ。悪い話を聞かない。先を見据えるともったいないと思うこともある。
司会・柳澤:閉会挨拶
所在地: 〒231-0032 神奈川県横浜市中区不老町1-1-1守谷ビル9階(2023年4月1日移転)
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