報 告
8月のまだ暑い季節ですが、会場にはたくさんの参加者に来ていただきました。建築関係者や学生もいます。JIA住宅部会主催のセミナーは、一般のみなさまはもちろん、学生さんやプロのかたも歓迎しています。今後も気楽に足をお運びくださいませ。
セミナー内容について触れたいと思います。
前半は、講師お二人の自邸を通しての、緑と建築の関りを話してもらいました。
関本竜太[OPENFLAT]
一階は車庫と事務所。二階、三階が自邸。中庭には多様な植物が植えてあるが、12年の間に何度も植え替えた木もあり、自然を相手にしている事を実感した。現在は何年もかけてこの場所に合った木が植わっている。外部に飽き足らず、今や室内にも観葉植物が所狭しと飾られ、その為の鉢選びなどが楽しいという。しかし、最初から植物に興味があったわけでなく、毎日接しているうちに夢中になってしまった。皆さんも構えずに緑にチャレンジしてみては、と笑いながら語ってくれました。
堀内 雪[多摩川の家]
多摩川の土手に面した三階建て。各階からは景色がまるで違って見える、このロケーションに出会うまで、ずっと土地探しをしていたとの事。前面道路には歩道があり、敷地に接する部分に植込みスペースがあり、市の所有地だが、掛け合って自分で管理する事で植栽の許可を得た。そこにはハーブなど植えてあり、虫よけと目隠しにもなりつつ建物内に香りを届ける工夫がされている。多摩川からの心地良い風が隅々まで届き、周辺環境と同化している建物です。
どちらも、道路に対してコの字型の中庭を持つプランですが、素材や工法にはそれぞれ特徴があり、植栽の種類や使い方にも個性が出ていて、同じような縦長敷地の中庭を持つ解決案でも、違いがはっきりと見えて、設計の多様さを感じてもらえたのではないでしょうか。
その中でも緑との対話では、自らが手入れをしている実感から、緑との付き合いの楽しさや苦労などを話していただきました。
一般的に植栽は手入れが大変、虫や動物(鳥等)も寄ってくるから嫌がる人もいる。というデメリットな部分を講師に投げかけてみると、それを凌駕するだけの価値があることを、建築と緑(自然)を愛するお二人の姿勢からよく垣間見てとれました。
どちらも光や風が通り抜ける素晴らしい設計で、建物自体の説明もしていただきたいところでしたが、あえて緑に焦点をあてて話してもらったので、次回の機会があれば、自邸の建築についてもじっくりと聞きたいところです。
休憩を入れた後半は、建主の緑への愛着を探る実例を講師それぞれ二件挙げて頂き、ディスカッションを致しました。
堀内 雪氏から1件目「ネギ畑の家」:埼玉の広大なネギ畑の一角に、建てられた建物です。もとは平らな土地に、盛土をして平面的にも立体的にも凹凸を作る事で、緑を建物内外に取り込んだ家です。最も特徴的なのは、家の中のリビングの床に大地と繋がる穴があり、緑が直接大地に植わっていることです。施主の希望という事ですが、造園家と丹念に相談して、家の中でも育つ木を植えて、数年たった現在も元気に育っているという事です。窓から見えるネギ畑はまるで大海原のように心を健やかにさせてくれそうです。借景の方法にもいろんなアイデアがあると感心しました。
2件目は「赤い小箱」:赤いガルバリウムの屋根と壁とコの字型の中庭を持つかわいらしい小箱です。二週間ほど前に「渡辺篤史の建もの探訪」に登場した家です。参加者の中にはテレビを見た方がいました。こちらの特徴は施主自らが三年かけて、デッキや植栽など庭造りを子供たちと一緒に行ったことです。まだ発展途上という事で、楽しみながら暮らしている様子が伝わります。DIYのきっかけは、設計者からのシンボリツリーのプレゼントが施主の心をつかんだようです。
続いて、関本竜太氏からの1件目「KOTI」:葛飾区の木造密集地にたつ、敷地20坪に建つ小さな家です。接道する道と細い路地に囲まれた角地で、敷地が小さいにも関わらず、敷地角部分を街にひらいた庭として、緑とベンチが設置されています。設計者の思い切った提案だという事ですが、そのアイデアに施主も頷き、散歩する近隣の人たちや子供たちの交流に一役買っています。ささやかな緑の空間でも、周辺環境に好影響を与えている好例でした。
2件目は「パーゴラテラスの家」:こちらは植栽を造園ワークショップで行った珍しい取り組みを紹介して頂きました。有名な造園家、荻野寿也氏を迎え、施主、設計事務所、工務店、ボランティアの皆さんで行った様子を説明。バルコニーにあけた穴にアイダモの木を下から通す。最後の仕上げに岩の間に皆で苔を植えるなど楽しそうな作業。楽しいだけではなく、施主にとって、建物や庭に対する愛着が湧き、緑のメンテナンス技術も取得できる等、今後も成長する家を守ってくれることでしょう。
まとめ
外構や植栽などは、どうしても後回しになって、予算をつぎ込むことができない。でも、予算がなければないなりに、規模が小さくても良い、自らが手掛けるなど、あきらめないで緑に接すれば、きっと家と共に成長した緑が応えてくれます。自然相手なので、場所に合わなく病気で枯れたり虫が付いたりと、面倒な事はありますが、毎日丁寧に観察することで、病気の発見や自然の営みの気づきにも繋がります。建物に緑を上手に取り込むことで、日々新しい発見があり、暮らしに彩りや潤いをもたらしてくれます。これこそが、暮らしの豊かさとして実感している講師のお二人のお話から伺えることができました。
個人で楽しむささやかな事でも、近隣の周辺環境に好影響を与えてくれます。ちょっとした優しさが、自然(植物や生き物)にやさしく、人にやさしく、地球にやさしい。持続可能な社会の一員として、ご自宅に緑を積極的に取り入れてみましょう。 記:コーディネーター 中澤克秀
セミナーの様子
概 要
住宅部会では、株式会社LIXILと共催で一般市民を対象としたセミナーを行っています。2019年前期のSUMAIセミナーPART29を行います。
緑と共に暮らす ~成長する住まいと環境を考える~
住まいは性能だけでなく、緑を上手に取り込むことで、暮らしに彩りや潤いをもたらしてくれます。また積極的な緑化は周辺環境を向上させ、自然にやさしい暮らし方に繋がります。緑と共に成長する住まいについて我々と一緒に考えてみませんか?
日時:2019年8月24日(土)
13:00~15:00
コーディネーターと講師の2人は共に自邸兼用事務所で仕事をしています。自邸には敷地や建物内に緑があふれ、自然と建築のかかわりを大切にした設計を心掛けています。緑を愛し共通した感覚の建築家3人が集まりました。それぞれの緑に対する思いを聞き出しながら、共通した手入れの悩みや楽しみ、個々の暮らしの発見など、自邸を通した身近な話から、仕事を通した環境への配慮など、盛りだくさんのセミナーになるように、現在準備中です。
セミナーの打ち合わせに、講師のお二人の自邸に訪問して、セミナー打合せと事務所や自宅を拝見させてもらいました。偶然にも道路面に対して同じ、「コ」の字型の中庭を持つ構成でした。
でも、鉄骨造とRC造と構造も違い、それぞれの個性が際立っていました。敷地も同サイズ程度でほぼ平な土地だけど、周りの環境や設計者の違いで、解釈はいかようにもあるという事を実感しました。
また実は私の自邸もコの字型の中庭を持つ建物です。道路との関係性が違いますが、三者の共通項も発見できて、興味深いセミナーができるものと確信しております。
建物の性能を担保するのは当然の事で、使い勝手の良い間取りを設計するのも大事であるが、それにとどまらず、建て主の生き方、暮らし方に寄り添って提案できるかが、建築家の技量として問われています。
また、個人で楽しむささやかな事でも、近隣の周辺環境に好影響を与えることも可能です。ちょっとした優しさが、自然(植物や生き物)にやさしく、人にやさしく、地球にやさしい。
そんな建物と緑との両方を提案しつつ、最終的には自分らしい暮らし方を見つける施主のものがたりです。講師の過去の事例を通して、お話しさせていただきます。
どなたでも参加できます。参加費は無料です。一般のみなさまはもちろん、学生さんやプロのかたも歓迎します。ぜひ、足をお運びくださいませ。
記:コーディネーター中澤克秀
四季が移ろう中庭のある家(OPENFLAT)
(設計監理:関本竜太|リオタデザイン)
多摩川の緑とつながる土間空間(多摩川の家)
(設計監理:堀内 雪|スタジオCY)
薔薇と暮らす10坪の庭のある家
(設計監理:中澤克秀|中澤建築設計事務所)
講師:関本 竜太(リオタデザイン)
講師:堀内 雪(スタジオCY)
コーディネーター:中澤 克秀(中澤建築設計事務所)
詳細情報
- 開催日
- 日時:2019年8月24日(土)
- 時 間
- 13:00~15:00
- 会 場
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LIXILショールーム東京 7Fイベントルーム
東京都新宿区西新宿8-17-1住友不動産新宿グランドタワー7F - 交通案内
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東京メトロ丸の内線「西新宿」駅1番出口より徒歩約3分
駐車場:なし - 講 師
- コーディネーター:中澤 克秀(中澤建築設計事務所)講師:関本 竜太(リオタデザイン)/堀内 雪(スタジオCY)
- 参加対象者
- 一般・学生及びJIA会員(協力会員含む)
- 参加費
- 無料
- 定 員
- 50名 定員で締め切る、事前の申込が必要
- CPD
- CPD 2単位
- 問合せ先
- LIXILショールーム東京『SUMAIセミナー係』
- 申込方法
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氏名、住所、電話番号、メールアドレスを明記の上、メールもしくはファクスでお申し込みください。LIXIL ショールーム東京 「SUMAIセミナー」係
〒160-6107 東京都新宿区西新宿8-17-1住友不動産新宿グランドタワー7F
TEL. 03-4332-8888 FAX.03-4332-8880
専用申込アドレス event-tokyo@lixil.com - 主 催
- (公社)日本建築家協会関東甲信越支部住宅部会