JIA Bulletin 200410月号/海外リポート


ニジェール事情
鈴木 敏彦

ニジェールってどこ? 私が最初にODA(政府開発援助)の小学校建設調査プロジェクトの担当としてニジェール行きを指示された時の第一声でした。以来、海外事業部に移籍して、アフリカへの渡航回数は10回を超えることになりました。今回執筆の機会を得て、「ニジェールの建設とは」といった大上段に振りかぶったお話しが出来るわけではありませんが、ニジェールの小学校事情などについてご紹介したいと思います。
 ニジェール共和国の概要
写真1―地方の集落(中央に見えるのがモスク)

 ニジェール共和国は西アフリカの内陸国で、 サハラ砂漠の南縁いわゆる「サヘル地域」に属します。その面積は日本の約3.4倍(126,7000m2)ありますが、国土の北2/3は半砂漠が占め、農業が可能なのは南部の12%に過ぎません。東京都とほぼ同じ人口(約1,120万人)のほとんどはこの地域に住んでいます。この地域の気候は6〜9月の雨期と乾期に明確に別れ、雨期には植物が芽吹き乾期に赤茶けた土で覆われた大地に、緑の下草が絨毯を敷き詰めたように生えます。作物も雨期にしか生育せず、この時期に取れたミレットなどの穀物を後述の倉庫に保存しています。乾期の最も暑い時期(3〜5月)の気温は40℃を越えますが、湿度が極端に低い(5〜6%)ため日本のような蒸し暑さはなく、日陰に入れば比較的すごしやすい。ただし、汗をかいてもすぐ蒸発するので発汗の意識がなく、定期的な水分補給が必要です。
 同国は1960年に他のアフリカ諸国と同時に元宗主国フランスから独立し、共和制を布いています。公用語はフランス語ですが、ハウサ語などの現地語も一般に使用されています。国民の約75%はイスラム教徒で小さな村々にまでモスクがあります。(写真1)
 経済の中心は北部でのウラン生産と南部の農牧業ですが、近年のウラン市況の低迷、天候不良による農産物の生産量落ち込みにより経済は低迷し、深刻な経済困難に陥っています。国民一人当たりのGDPは200ドルで、サブ・サハラ諸国の500ドルを大きく下回り、所得が1ドル/日以下の貧困層が人口の60%を占めています。
写真2―システム化された藁小屋
写真3―掘立小屋の藁小屋(後ろは同国政府により建設されたCB校舎)
写真4―ジェンネ旧市街にある日干し煉瓦の大モスク
写真5―日本の援助で建設された校舎
写真6―バンコの穀物倉庫
 ニジェールの小学校
 1. 小学校の状況
 小学校は6年制で、10月に新学期を向かえ翌年6月に終了します。雨期の7月から9月は夏休みとなります。授業は教室数、教員数の不足から2部制、3部制(複数の学年、クラスが時間を分けて同一教室を使用して授業を行うシステム)、または複式授業(複数の学年が同一教室で学ぶ)が一般的です。また、地方部では6学年全て揃っていることは希で、ある世代の児童のみが順次上がっていく学校が多数存在します(例えば、今年度は3年生のみ、来年度は4学年のみ)。
 また、児童が有力な労働力とみなされているため学校へ通える児童は少数であり、小学校への就学率は34%程度でサブ・サハラ諸国の平均74%の半分以下であり、近隣国中では最下位に位置します。ニジェール政府はこの状況を改善するため「教育開発10ヶ年計画」を策定し、2012年までに就学率を70%まで向上させることを目標としており、その一環として日本への無償資金協力を要請してきたものです。
 2. 小学校の校舎
 ニジェールの小学校校舎は藁小屋、バンコ、コンクリートブロック校舎の3種類に分けられます。
・ 藁小屋 藁小屋は写真に見られるようなシステム化され窓もある整然とした藁小屋教室(写真 2)と掘立小屋の藁小屋(写真3)とに大きく二分されます。藁小屋教室は雨季の間は撤去されその資材(藁、木材)は保管され雨季の終わり(新学期)にPTAにより再建されます。
・ バンコ バンコとは日干し煉瓦を積み重ね、表面を土で平坦にならしたもので、建物の壁を構成します。屋根はトタン板または木製の桁に藁をのせたものです。これは住宅・穀物倉庫にも使用され、雨の少ない西アフリカの国々で一般的に見られるものです。バンコは経年的には雨で表面の土が流され崩壊し土に帰るので自然環境には優しいのですが、維持していくためにはメンテナンス(表面に土を塗る)が必要です。隣国のマリには、ヤシ材の骨組みに約20mの高さに日干し煉瓦を積んだ大モスク(世界遺産に登録されているジェンネ旧市街にある)が1906年の再建以来、その偉容を誇っています。(写真4)
・ コンクリートブロック校舎 私が携わったプロジェクトは、上記の藁小屋教室およびバンコ教室のコ ンクリートブロック校舎への建て替え及び増築です。コンクリートブロック校舎は日本だけでなく、ニジェール政府、世界銀行、他援助機関により建設さ れています。標準的な仕様は補強コンクリートブロックの壁の上に折版の屋根を掛けたシンプルなものです(写真5)。 折版の屋根は、雨音がうるさく響きますが、幸いなことに雨期は夏休みとなります。また、防熱のため木製の天井を設置していますが、古い建 物では天井裏に蝙蝠が巣を作りそ の糞で天井が腐っているものもあります。窓、扉は鋼製のガラリを鋼製枠に埋め込んだものを使用します。これは、ガラスが高価であり破損後のメンテナンスが難 オいこと(所詮は小学校ですから児童のイタズラによるガラスの破損は防ぎようがない)、砂嵐の場合は開口部を閉めて砂の侵入を防ぐことなど現地の事情に即した仕様となっています。ちなみに、授業中は開口部をすべて開けはなっています。
 3. 穀物倉庫  最後に、学校ではありませんが、 西アフリカ地域でよく見かける穀物倉庫の一例を紹介 します 。これは、雨期のみに収穫される穀物を貯蔵するため のもので、バン コで造られたもの、藁のみで造られたもの、バンコと藁を組み合わせたものなど、いろいろ変わった形状の倉庫があります。 写真6に 示したのは日干し煉瓦のみ(骨組みはない)で積み上げられたバンコの穀物倉庫です。

以上多少なりともニジェール、引いてはアフリカへの興味を持っていただければ幸いです。

 

〈(株)大建設計〉

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