JIA Bulletin 2005年2月号/海外リポート | |||||||||||||||||
中国の歴史的街並み および建物の調査を終えて |
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松村 崇史 | |||||||||||||||||
去る9月4日-12日の日程で神奈川大学から高橋志保彦教授以下院生4名を含む6名で中国を訪れました。目的は神奈川大学と武漢理工大学が共同研究として進めている「中国湖北省古鎮街道調査および研究――小都市の歴史的街並み及び建物の調査」の現地における実測調査でした。
我々は現地(湖北省)に赴く前に上海に1日滞在しました。上海では近代建築や高層ビルが建ち並び、さすが現在アジアで一番成長していると言われているだけあるなと感じました。特に建設中の高層マンションが目に付き、上海の住宅事情を物語っていました(写真1)。地震国日本とは違い地震に対する不安がないため、競い合うように次々と細長いマンションが建てられていました。どれも我々日本人の眼から見るとひょろっとしていて倒壊してしまわないか不安になってしまうほどでした。 しかし、始めに上海の建物を見ることができてよかったと思います。これから訪れるところとは正反対のものだったからです。 湖北省の古鎮群 湖北省の武漢市に到着した我々は、武漢理工大学の留学生用の宿舎を拠点に各古鎮の調査を行いました。古鎮とは明・清時代の古い街並みの残る集落を指します。今回は以下の4ヶ所を5日間かけて調査しました。 ・新店古街(Xin Dian)・羊楼洞(Yang Lou Dong) ・瞿家湾(Qu Jia Wan)・周老嘴(Zhou Lao Zui)
現地へ着くとまずはぐるっと歩き回りました。途中で「この家はですね……」といった具合に説明を受けながら進みました(写真2)。しかも平気で家の中まで入っていくのです! 始めは恐縮しきりだった我々も、毎回快く招き入れて下さる住民の方々(中には一生懸命熱弁を振るって下さる方も……)の寛大さに次第に打ち解けていけたように思います。 昼食をとり、午後から本格的な実測調査が始まりました。あらかじめ目をつけておいた建物をメジャーや距離計を使いながら建物の寸法を測ります。同時に風速計や照度計を使って温度・湿度・風速・照度を測定しました。簡単な平面図を作成し、そこに寸法を記入していくというやり方で行いました。外観や内観はスケッチや写真撮影で補いました。 また、調査は建物のみではなく街並み全体にまで及びました。街路の全長や幅員を測ったり、すべての建物を写真撮影したりと全員が動き回りました。武漢理工大学の院生にはアンケート調査を担当してもらい、住民の声を聞くことができました。この結果、多くの有意義なデータを得ることができました。非常に充実した内容に大変満足しました。 建築的特徴 まず、間口が狭く奥行きが長いという点があげられます。このうなぎの寝床のような建物が幅員約3-4mほどの街路を挟んで連なっています(写真3)。隣の建物とは1枚の壁を共有しているパターンが多く、このことが改修の際のひとつの障害となっているのではないかと感じました。また、このような構造のため開口部を効果的に確保することが容易ではなく、様々な部分での問題を生じさせます。ひとつは明るさです。ただでさえ間口部分にしか開口部を設けることができない上に奥行きがあるのです。そのままでは奥に行けば行くほど明るさが失われてしまいます。また、開口部が確保できないということは空気の流れも滞ってしまうということで、換気などの問題も見逃せませんでした。 これらの問題を解決するために、天井(Tian Jing)と呼ばれるものが設けられています(写真4)。日本でいうceilingの意味での天井とは違い、屋根の一部分を開けているところ(天)とその下(地)の部分の総称です。屋根を開けているので、もちろん風雨も入り込む半分外の機能を持つ特徴的な部分です。長い奥行きの途中で光を取り込むのはもちろんのこと、空気の流れも生み出していました。やはり他に比べて明るいので人々が集まる場になっているようでした。 この他には屋根、特に瓦に特徴がありました。日本の瓦に比べ狂いが大きく、わりとおおざっぱな出来でした。 しかも葺き方が大きく違い、野地板はなく垂木の上に瓦をそのまま載せていくのです。そのままでは風などで吹き飛んでしまうところを瓦自体の重さで抑えるという手法を用いていました。そのため膨大な量の瓦が使われていました(写真5)。また、明るさを確保するという意味で透明な瓦がところどころに使われていました。亮瓦(Liang Wa)と呼ばれるこの透明瓦も非常に特徴的であり、資料として持ち帰れたことは大きな収穫でした(写真6)。
今回の実測調査を踏まえ、現在データをまとめている最中です。協力していただいた武漢理工大学のみなさんをはじめ、たくさんの方の期待に応えられるように精一杯頑張りたいと思います。
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〈神奈川大学工学部建築学科〉 |
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