四川大地震
2008年5月12日に四川省でマグニチュード8.0の大地震が発生しました。死者行方不明者は約8万7000人にも上ります。その多くの方が脆弱な建物の下敷きとなり亡くなったことが分かり、建物の設計に携わる者として居たたまれない気持ちになりました。地震大国を出自とする建築家として、自らの職能を活かして四川の復興に貢献できないだろうか。被災状況を考慮した結果、「日本の耐震技術を用いて地震に強い校舎を建設し、現地の子供たちに無償で贈ろう」という考えに至りました。
日本の耐震技術を用いた校舎
中国での仕事が9年目を迎えた私には、建設関連の日系企業とのつながりがありました。それらの企業にプロジェクトへの参加を呼びかけ、さらに他分野の日系企業からも支援をしてもらえれば、学校を一校建設することは可能ではないかと考えました。
まずは基本となる建築の躯体をどうするか。今回倒壊した校舎の多くは粗末な造りのRC造の校舎だったため、敢えて鉄骨造で、しかも薄板軽量形鋼造を採用して耐震性の高い校舎をつくりたいと思いました。現場工事で建物の品質の差が出ないプレハブ造の特性を、再建プロジェクトであるからこそ採用する意義があると考えたからです。その工法は中国ではまだ普及はしていませんが、新日鐵などの出資を受けた北新房屋有限会社とういう中国の建設会社が、「スチールハウス」として主に低層集合住宅の分野で展開していました。
この工法のメリットは、省資源、短工期、高性能であることです。
莫大な数の建物の再建が必要な四川省においては、省資源での建設の可能性が示されることは非常に有意義であると思います。枠組壁工法であるため、通常の鉄骨ラーメン構造と比較すると、半分程度の鉄の使用量で同程度の耐震性を確保することができます。またここで用いる耐震技術は、希望する施主や施工会社などに今後無償で提供される予定です。さらに外断熱通気工法を採用しているため高い断熱性能を実現することもできます。この学校を通して、再建のひとつのモデルを提示できればと考えています。
集うことの楽しさを実感できる配置計画
もうひとつの特徴は、回廊でつながれた教室群が中庭を囲む配置です。学校の最も根本な役割は、「集う」ということではないかと考えました。幼稚園児にとっては、情緒性や社会性を育む最も大切な時期であると思います。この中庭を巡る集合形式は、従来型の平行配置では生み出しにくかった一体感をつくり出すことができます。
広場を巡って住居が配置される形式は、 世界各地のプリミティブな集落を参考にしました。そこには情報交換のほとんどない時代から人類が培ってきた「集まって暮らす」ということの根源が現れています。いつかこの中庭が子供たちの歓声に包まれる日を思い描いています。
小学校から幼稚園への用途変更
震災後まもなくスタートした「小学校寄贈プロジェクト」でしたが、今年の6月末に再建の対象が小学校から幼稚園に変更になってしまいました。これまでにもこのボランティアプロジェクトは、数多くの困難に直面してきましたが、この用途および敷地の変更はその中でも最大級のものでした。
昨秋の金融危機に端を発した世界同時不況は、寄付や建材の提供によって成り立つこのプロジェクトを直撃しました。そのため当初の工事スケジュールは大幅に延びてしまい、この変更が発生した6月にようやく造成工事が終わろうとしていたところでした。
様々な政府の部門から構成された「四川復興プロジェクト監査チーム」により、私たちの「小学校寄贈プロジェクト」の進捗状況が問題視されてしまいました。小学校は四川大地震復興プロジェクトの中でも重点項目となっており、2010年3月末までに再建を終了するよう中央政府の強い方針が出されています。その結果を受けて、綿竹市政府から私たちに、「再建対象を小学校から幼稚園に変更して欲しい」との申し出がありました。これまで多くの方々からの支援を受けてきた経緯からも、とても受け入れられないと最初は拒んでいましたが、不便な仮設校舎で新校舎を待ち望んでいる児童たちのことを考え、上記の申し出を受け入れる苦渋の決断をしました。幼稚園の建設工事は2010年4月末の竣工を目標に進めており、現在確認申請図面を提出したところです。私たちが再建を進めてきた小学校は、対口支援先の自治体により再建されることとなりました。
寄付のお願い
小学校から幼稚園となったことで規模が縮小され、必要事業費も小さくなりましたが、まだ700万円ほどの資金が不足しています。この寄贈プロジェクトに賛同くださり、ご寄付を頂けるようでしたら大変幸いに存じます。ご寄付頂いた個人または企業のお名前は、竣工時に建立する予定の記念碑に刻ませて頂きます。
詳しい内容は、SAKO建築設計工社 Tel: 03-5548-4610 担当:坂井まで。もしくはHP(www.sako.co.jp)をご覧下さい。
何卒よろしくお願い致します。
春風日中友好幼稚園の模型。中庭を巡る回廊が教室群を結びつけます。 |
日本より外壁材などを積んだ40ftコンテナが6本、現地に到着しました。 |
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