JIA Bulletin 2010年4月号/F O R U M 海外レポート
イギリスに見る庭園設計の源
―― 見慣れた環境から多くを学ぶ
ガーデン・デザイナー 谷田部淳子氏
谷田部淳子氏

 
■庭園の設計、外構計画をする時に何を参考にすれば設計者の想いに近いものができるのか?
 普段の暮らしの中で実際に触れることのできる体験が多ければ、イマジネーションが膨らみ、施主の好みを反映した個性的なものができると思う。依頼主も我が庭を作ろうと思ってもなかなかイメージをするのが難しく、隣家の庭を指さしたり、How toもののグラビアを広げてみたりするのだが、結果、「こだわりのある建築」に「力抜けた外構」が合体し、日本の街並みを作っているように思う。
 毎年ロンドンで庭探訪しているが、愛好家でなくとも市民の庭園に対する造詣の深さに、そして年間を通して庭のエッセンスに 触れる機会が大変多く存在することを実感する。 庭園設計の参考になる場所を先ず挙げるとするなら、ナショナル・トラストの公園。ザ・ナショナル・トラストは、国民的財産である美しい自然風景や貴重な文化財・歴史的景観を保全する活動は多くの人に知られているが、年間のメンバーシップ料金の34ポンドを払えば、英国全土に点在する庭園、施設への入場が年間何度でも無料になるため、散歩好きな英国人は300万人以上もこの会員になっており、カントリーサイドを繰り返し旅行しているうちに庭園愛好家でなくとも歴史に精通し、風景を切り取ったような庭のSPIRITSが身体に沁み込んでいってしまう。素人であってもスモールスペースを風景的で自然な雰囲気の庭に作り上げることができる環境が、ここにあると思う。

ハンプトン・コート・パレス
ハンプトン・コート・パレス

次に素晴らしいガーデン・ショウの存在。毎年5月、ロンドンで開催されるチェルシー・フラワー・ショウは、まさに英国の夏の到来を告げるイベントで、世界中から集結したガーデン・デザイナーや園芸家たちが造り上げるガーデンを見ようと15万人もの入場者がある。ショウでのディスプレイは期間中に繰り返しメディアでも紹介され、ガーデンのトレンドを印象づけてくれる。春先からやや規模は小さくなるものの、チェルシーを前後して四つのガーデン・ショウが開催され、庭作りの手本となっている。

最も身近に個人庭のエッセンスを楽しむことができるのは、オープンガーデンに出向く方法。
 オープンガーデンとは個人の家の庭をチャリティとして公開し、オーナーも見学者も社会貢献をしようとする考えで、 王室もバックアップしているナショナル・ガーデン・スキーム(NGS)という慈善団体が、毎年、英国各地のお庭情を3,500件以上も本にまとめ、編集、発行している。
 表紙が黄色いことから「イエローブック」と呼ばれ、春先になると本屋に平積みにされ、これを頼りにガーデンの愛好家は個人庭に足繁く通い、庭主との情報交換をしプランニングの参考にする。
 私は100以上の個人庭を訪ねてみたのだが、個人庭とは思えないほど洗練されているものが多い。
 40分以上飽きずに楽しめる庭というのが基本で、実際に団体の審査委員が庭を訪れ、パスした庭だけが掲載されるシステムになっているからで、室内のカーペット以上にメンテナンスの行き届いた芝生にも、たった一日限りの公開日に向けて注がれたオーナーの情熱を感じることができる。

エクステリアを考える時、普段過ごしている環境の中で、吸収できるものが多く存在するのは、 大変恵まれていることと思う。日本国内でも内容の充実したガーデンショウの開催が増えて、地方で盛んだったオープンガーデンのネットワークも都心の住宅地にも広まりつつあり、大分認識されてきたようだ。
 外構や庭の計画がこうした流れの中で洗練され、しいては、街並みも美しく変化してゆくことを信じている。

 

谷田部 淳子(やたべ じゅんこ) 氏
プロフィール

・1963年神奈川県茅ヶ崎市生まれ
・慶応大学、英国CAPEL MANOR卒
・航空会社退社後、英国留学。
・海外の庭園、美術館から受ける印象を
 庭園設計に生かす。
・町田ひろ子インテリア・コーディネータ
 ー・アカデミー講師
・ガーデンデザイン・レクチャー


フラワー・ショウ
フラワー・ショウ

オープン・ガーデン
オープン・ガーデン

〈アッシュ・ガーデン〉


海外レポート 一覧へ