JIA Bulletin 2011年3月号/海外レポート | |||||||||
コミュニティデザインと建築デザイン
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吉良 森子 | |||||||||
近年collective private commission(以下 CPC)というプロジェクトに関わるようになった。20 前後の家族がNPOを組織し、同じくNPOのコンサルタントのアドバイスを受けながらディベロッパーなしにタウンハウスや戸建て住宅を開発する、コーポラティブハウスのようなプロジェクトだ。
住民がイニシアティブをとって都市開発プロジェクトに参画することは、自治体が都市計画を主導するオランダではそれまでありえなかった。14世紀にさかのぼる長い干拓の歴史と 20 世紀初頭の住宅法の制定によって、自治体が土地政 策・都市計画をコントロールしてきた高人口密度の小国オランダでは、日本のように個人が土地を買って住宅を建てるチャンスは希少だ。近年ディベロッパーと自治体の官民共同の開発へ移行し、土地が個人に分譲されるケースも増えてきたが、住民グループがディベロッパーと同等の開発主体として認められたのはこのプロジェクトが初めてだった。それだけに政治家を説得し、自治体の都市計画局の信頼を得るのは容易ではなかったようで、住民グループのチームワークは良く、そしてプロフェッショナルだった。彼らは住宅の質だけでなく、設計・工事期間とコストの管理の重要性を自覚しており、その総合的なコントロールを建築家に期待していた。この住民グループは、コレクティブな住宅開発のサポートのために立ち上げたばかりのNPOのアドバイスを受けていた。住民によるボトムアップの開発こそコミュニティ、住宅、近隣環境の質の高いプロジェクトが実現できると考えた二人の人物が KUUB という NPO を設立したところだったのだ。
私にとってもこのプロジェクトは全く未知な領域だった。クライアントが一人・一団体でも都市計画局、市の美観委員会の審査、近隣説明を必要とするオランダの設計プロセスは複雑でそれぞれの利害をうまくまとめられないと頓挫すると いうのに、複数の素人がクライアントだ。それぞれが別のデザインを求め、何度もの話し合いと設計変更を求められ、無 数のメイルや電話の対応に迫られ、その結果、プランニングと工事費の管理に失敗したら。第一自分が納得できる作品を実現することができるのだろうか。 私はKUUBと住民代表に正直に私の不安を伝えた。そしてできる限り透明でシンプルなプロセスをコンセプトに、クライアントはそれぞれの住民ではなくNPOで、私たちはあくまでも一つの住宅を設計し、それぞれの生活スタイルに対応できるように十分なバリエーションをつくる。各家族と希望を話し合い、間取りに反映する機会を設け、公平かつ透明なコミュニケーションをするためにKUUBが連絡をとりまとめることなどが決められた。 L字型の平面によって路地からのプライバシーを確保し、 中庭と連続した一階のオープンな空間つくる、というかつてのデザインのベースは変えなかった。小さな敷地・日照条件を考えると、基本的なボリューム配置にバリエーションを設けることにメリットがないことは明らかだったので、「中庭をコアとしたプライベートな空間とアーバンな路地空間のコントラスト」という空間の特徴を明確にし、それぞれの家族が自分たちの生活スタイルに沿って間取りを自由に決めることを提案した。路地と中庭空間のコントラストを強め、採光をさらに良くするために庭側のボリュームは一層とし、路地側は3階建てとした。それぞれの家族の住まい方の違いが外観に反映されるように連窓、横長の窓、小窓などのバリエーションを設けた。
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吉良 森子(きら もりこ) 1965年 東京都生まれ。 |