JIA Bulletin 2011年5月号/海外レポート

中国でのサスティナブルデザイン

 

中山 大二郎
中山 大二郎

 

 ここ数年中国においていくつかのサスティナブルデザインの試みに関わりました。スティーブン・ホール・アーキテクツ(以下、SHA)とオープン・アーキテクチャー(以下、OPEN。SHA パートナーLi Hu の設計事務所)での仕事を通して、環境後進国とされる中国の中での取り組みの一例をご紹介します。

南京美術館/ 敷地遠景 photo/Iwan Baan
南京美術館/ 敷地遠景 photo/Iwan Baan

南京美術館/ 外景 photo/Iwan Baan
南京美術館/ 外景 photo/Iwan Baan

3年前に竣工したCPCプロジェクト

南京美術館/ 竹型枠黒塗料コンクリートと乳白ポリカーボネートの外壁
photo/Iwan Baan


 SHAは5年程前から中国でいくつかの仕事をしています。常に貫かれているデザインのコンセプトは、光と材料の独特な扱い方にありますが、中国の仕事においては加えてサスティナブルに関わるアイデアも戦略的に取り入れられています。世界中がグリーンデザインの流れに向かっていく中で、中国政府や社会がサスティナブルデザインを推奨することに着目する企業は多く、クライアントの企業価値への関心とSHA のデザイン戦略の利益が一致し、思い切ったデザインが実現しています。
 私が関わった南京にある私立美術館は、国立公園に接した山林の中に多くの建築家を招き開発をするプロジェクトの一部なのですが、広く散在している多くの建築物すべてに地熱利用が適用されています。エネルギーの持続的な利用と共に、クーリングタワーを屋根に設置する必要がないのはデザインの自由度を非常に大きくします。空中に浮いている展示空間を単純なチューブ状とできたのは、この地熱利用に因るところが大きいです。地上部建物の外壁には原生する豊富で安価な竹を型枠に使ったコンクリートとし、現地の自然、気候、建設技術を利用したサスティナブルデザインとして、また視覚的にも魅力的なアイデアを採用しています。また、十分な雨が降る気候や、敷地が大きな湖を含んでいる水の豊富な立地条件から、雨水利用も積極的に活用されています。設備にかかる初期投資で頓挫することが多い中、個人の美術コレクターであるクライアントの理解により実現しているこのプロジェクトは稀な成功例と言えます。他のプロジェクトでは、北京に完成した集合住宅Beijing Linked Hybrid(BLH) は100Mの深さのの地熱利用パイプが660本埋まっています。雨水、中水利用と共に、中国内では最大規模の設備投資を実行したこのディベロッパーは、この仕事を通してグリーン戦略を前面に出すことで建物の価値を上げ、今ではBLH は北京内で最も値段の高い集合住宅の一つにまでなっています。もう一つの例は、深センに完成した中国最大のディベロッパー、万科集団の新本社屋においても大規模な地熱利用、太陽光発電を採用、また建物全体を浮かせ敷地全てと屋根を緑化するスーパーグリーンというコンセプトもこのプロジェクト以降大きなデザインの特徴になっています。このプロジェクトが中国においてアメリカの環境評価性能LEEDのプラチナを獲得したことは特筆に価し、クライアントの関心と熱意の高さに因るところが非常に大きいです。オフィス以外にホテルや多目的施設もあり、また地上レベルの外部は一般に開放されていますので、地域住民の公園として、また隣接するビーチにつながっていくリゾート施設として、より広く受け入れられていくことが期待されています。


Linked Hybrid/ 中庭全景
Linked Hybrid/ 中庭全景 photo/Iwan Baan

Linked Hybrid/ 地熱パイプ施工
Linked Hybrid/ 地熱パイプ施工
photo/Steven Holl Architects

Linked Hybrid/ 水庭

Linked Hybrid/ 水庭 photo/Iwan Baan

Linked Hybrid/ 地熱利用ダイアグラム

Linked Hybrid/ 地熱利用ダイアグラム
photo/Steven Holl Architects


 SHAの中国での建物は他国でのものと比べ規模が非常に大きく、またクライアントの勇気がないと実現できない思い切った形状なりそれを支える構造が注目されますが、スーパーグリーンや持続的な設備投資が大きな支えになっていることが中国での成功を支えていると思っています。
 現在勤務しているOPENで担当している公立中・高一貫校では、SHA での試みをローカルのレベルまで適応、発展させています。“緑と農場の間で行われる教育の場”をコンセプトとし、地上から浮いた教室の上下に緑と畑が配置され、自然体験から学ぶことを意図しています。また、地熱利用、雨水利用などの設備を地下に配することで、地上部の設計の自由度が高くなります。学校の最終的なオペレーターがまだ決まっていないので設計変更の可能性が大きい中、この設計の自由度をいかに確保するかという点も持続的デザインの範疇としていくべきでしょう。

学校/ 全景

学校/ 全景 photo/OPEN Architecture

学校/ 断面図

学校/ 断面図 photo/OPEN Architecture

学校/“緑と農場の間で行われる教育の場”コンセプト

学校/“緑と農場の間で行われる教育の場”コンセプト photo/OPEN Architecture



 サスティナブルデザインはこれからも中国での戦略の一つとして欠かせないでしょう。この二つの事務所の試みは、ある意味過剰なまでにコンセプトを徹底させることで社会に訴えかけることを戦略としています。環境への意識に大きな偏りのある現在の中国では、問題を提起するパイオニアが必要とされているのは時代の流れと言えましょう。SHAは言わば黒船のごとく問題提起と解決方法を外部から実践し、OPENはより中国社会に根ざしたレベルまで持続的アイデアを浸透させる役割を担うことを意識しています。今が環境問題を良い方向に舵をとる勝負の時だと認識し活動しています。

万科センター/ 地上レベル夜景

万科センター/ 地上レベル夜景 photo/Iwan Baan

万科センター/一般に開放された地上レベルのランドスケープ

万科センター/
一般に開放された地上レベルのランドスケープ
photo/Iwan Baan

〈O.P.E.N. Architecture  放建筑

中山 大二郎 (なかやま だいじろう)

1977年岡山生まれ。02年広島大学大学院修了。手塚建築研究所、北京松原弘典建築設計公司、Steven Holl Architects 勤務を経て、現在OPEN Architecture(北京開放建築建築設計公司)に勤務。


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