JIA Bulletin 2015年5月号/海外レポート

世界遺産を訪ねて
ナバホネイションを行く

松枝 雅子

松枝 雅子


■世界遺産 アメリカ先住民住居跡・チャコカルチヤーとメサベルデ
 ニューメキシコ州の北西部にあるアメリカ先住民の都市遺跡、チャコカルチヤー国立公園のビジターセンターに到着したのは、10時半に近くなっていた。ロスアンゼルスで乗り継ぎ、アルバカーキ空港でレンタカーに乗り換えて、成田を出発してから3日目のことである。この日の朝は9時少し前にホテルを出発。途中には雨が降ると川が氾濫し通行が不可能になるので注意!と看板があるような相当な悪路もあった。
 ここは、ベーリング海を渡って北米大陸に住み着いたアメリカ先住民のなかで、フォーコーナーズ辺りに定住したアナサジ族が住んでいた、西暦850〜1250年頃に栄えた遺跡である。
 遺跡の基本的構造は、薄くスレート状に割った砂岩を積んで壁を造り、この壁に渡した丸太に床を張って造った重層型住居群である。こうした石積み技術や天文学等の高度な文明をもっていたと説明されている。敷地はチャコキャニオンの宏大な原野である。
 この日はコロラド州に入りビリーザキッドが居たという歴史のある美しい観光都市、デュランゴに泊まる。
 翌朝はメサベルデを見学。時間がないのでガイドツアーは申し込まず、フリーで見学出来る所だけで我慢する。チャコカルチヤー遺跡は平地に築かれた居住跡であるが、ここは、崖のくぼみを利用した断崖住居跡である。メサベルデとは緑の台地という意味で、緑の台地の上に西暦100年頃から暮らしていたアナサジ族が、12世紀中頃に断崖をくり抜いて住居を造り、100年ほど住んだ住居跡だそうだが、住人が忽然と消えてしまい、600年の沈黙の年月の後、1888年にカーウボーイに発見されたという事である。

 

■ナバホ族居留地・フォーコナーズとモニュメントバレー
 16時過ぎ、明日の見学予定地、モニュメントバレーへ向かい出発。途中コロラド、ニューメキシコ、アリゾナ、ユタの4つの州の境界が一点で交わっているフォーコーナーズを見る。フォーコーナーズのモニュメントの周りは、インディアンジュエリーの店や軽食コーナー等のブースで囲まれている。ナバホ族の居住地域はナバホネイションと言い、独自の法律があり、アルコールの販売は禁止されている。この夜泊まったカイエンタのモーテルも、ビールの飲めないレストランもナバホ族の人の経営のようである。
 成田を出発して5日目、車の走行距離は733.5マイル。
 奇岩の間をメチャクチャに揺られてモニュメントバレーを観光。真っ赤な台地、奇形巨岩の風景を舞台とした「荒野の決闘」「ハイヌーン」「駅馬車」などの西部劇映画は、私の青春と一体である。
 この辺りは良質な石炭が産出されるので、ペイジへ近づくと大規模な火力発電所があり大きな煙突が建っている。この石炭を埋蔵している土地もナバホ族のテリトリーである。

 


メサベルデ

チャコカルチヤー

フォーコーナーズ

モニュメントバレー

 

■満水にするのに17年かかった巨大ダム レイクパウエルとグランドキャニオン
 6日目、グランドキャニオンの上流のコロラド渓谷に造られたダムで、満水まで17年間かかったというレイクパウエルをクルーズしてからグランドキャニオンに向かう。
 7000万年前に地殻変動で海中から隆起したコロラド高原がコロラド川によって浸食されて出来たグランドキャニオンの断崖の上に立って下を覗き込む。コロラド川までの深さは1500 m。対岸の断崖は、赤茶・濃い茶色・薄茶・黄色など、沢山の層になっていて、これらは約20億年前からの地球の地殻の歴史を物語っているという事である。
 8日目、グランドキャニオンを後にしてパワースポットで有名なセドナを経由しフェニックスに向かう。セドナも赤いレンガ色の土が特徴で、サボテンとの調和が強烈である。特に崖の上のホーリークロスチャーチは印象深かった。フェニックスへはもうひと走り。
 明日はタリアセン ウエストを見学の予定。高速道路のパーキングエリアには毒蛇に注意等と書いてある。

 


グランドキャニオン

レークパウエル

グランドキャニオン

セドナ ホーリークロスチャーチ

 

■夏は毒蛇とサソリのタリアセン ウエストへ
 フェニックス市はアリゾナ州の州都で、航空機産業やエレクトロニクス産業が基盤であるが、観光都市でもあるという。ヤシ等の南国風な街路樹の町並みは美しく街路整備も確りしていて解り易く旅行者には有り難い。
 フェニックス市の外環高速道路に乗りタリアセン ウエストに向かう。解り易い道路標識のおかげで、迷う事なく目的地に到着。ゴロゴロした岩とブッシュとサボテンの荒涼とした風景が車で登ってきた道の先に広がっている。玉虫色のトカゲがサボテンの足下に潜り込む。見たかったアリゾナの荒野である。
 ガイドツアーを申し込む。ツアーは20人ぐらいでたっぷり2時間以上、熱射病予防のためかペットボトルのサービスがある。最初に案内されたサロンでは、写真で見ていたライトのスケール感が実感され、低く傾斜した天井のやさしさが心地よかった。私が住宅を設計し始めた頃は、建設コストを押さえるために天井を低くした設計が多く見られたが、低さは人を包み込む暖かさがあるものだと改めて思った。
 三角形の池は、澄んだ青い水が満ち噴水のしぶきがキラキラしていた。この住宅はライトの冬のアトリエと住居であるが、夏は暑さもさることながら毒蛇やサソリの被害を避けるため居住しなかったという事だ。外観を特徴付けている長く伸びた庇の垂木は木製の化粧垂木と思われるが、現状は修復で鉄製になっているという説明があった。
 見学後フェニックスのショピングセンターで寿司店を見つけラスベガスロールなるものを試食。明日は車を返しロスアンゼルス経由で帰国である。
 北米大陸の長距離ドライブは4度目であるが、アルバカーキを起点に、フェニックスを終点にして走った今回の走行距離は、1403.9マイル、2240kmであった。「自然景観を原生のまま維持する」というのがアメリカの国立公園の基本理念だそうだが、壮大な自然と地球の創世以来の歴史を見る事ができる、本当に魅力的な国である。

 


タリアセン ウエスト

タリアセン ウエスト

 

〈松枝建築計画研究所〉

 

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