JIA Bulletin 2017年1月号/海外レポート | |||||||||
現在の香港建築事情 |
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芝本敏彦 |
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アルカシア大会(ACA)出席のために訪れた香港についてレポートします。香港での会議運営取材が主目的でしたので、原則として街の様子を探るのは空港からの移動などに限定されていましたが、出発前に東京誘致の際には、駿河台の明治大学キャンパスを中心に計画することが知らされており、香港の街の中でも会議場、ホテル、学生ジャンボリーの動線や回遊性が自然と気になりましたので、それを中心に記述します。
建築作品では、ザハ・ハディド設計の香港理工大学イノベーションセンター、ダニエル・リベスキンド設計の香港市立大学クリエイティブメディアセンターに会議の合間に足をのばしました。ザハ作品は、用途は異なりますが8月の北京で見た望京SOHO、銀河SOHOとの共通点がうかがえ、用途にかかわらず自身の形態を追求していると感じました。低層部用の吹き抜け、高層部用の吹き抜けを備え上下空間の連携を目指していますが、日常使用が想定される階段はすれ違うのには狭く、実用性に欠けていないかと心配になりました。使いにくい校舎は学生に愛されず火をつけられてしまう実例もあると、学生時代に恩師から聞いたことを思い出します。キャンパスの一番奥の立地であり、その他のアースカラーで調和した建物群との異彩の放ち方が飛び抜けて感じられます。リベスキンド作品も白色主体でトーンや歪み具合は似ていますが、尖っています。竣工後の年月のせいか、屋根状の外壁がかなり汚れています。吹き抜けを用いて積層する内部空間の連携を高めようとした点は、ザハの作品に似ています。
ノーマン・フォスター設計の国際空港ターミナルは大空間を連続アーチで覆い、どうしても目の行く天井の構造体と仕上の調和が美しく、自然光も無理なく取り込まれ、自分の居場所が屋根形状からとてもわかりやすく、香港の玄関にふさわしい落ち着きも感じさせてくれました。この空港から香港島の香港駅まではヨーロッパの技術によるエアポートエクスプレスを利用しましたが、快適な車内に加え2つ驚くことがありました。1つ目は空港からのスムーズな乗車。入国手続きを経てサイン通りに歩いてくると正面に壁が立ちふさがっています。ここからの案内が消えているので列車にどこから乗るか尋ねると、正面の壁がホームドアとなっていて、列車が横付けされました。LRT並みの究極のバリアフリーと感じました。既存の街の中心では不可能なことです。2つ目は、帰りの香港駅でのチェックインです。空港で並ぶ必要もなく荷物を預けられ、自由の身となり、揚々と列車に乗り込みました。
旧啓徳空港跡地に建つフェデラルクルーズバンケットセンターは29日のアルカシア賞授賞式で訪れました。横付けされる客船の形状に呼応するような長細いシェイプと正面のダイナミックなアーチ。周辺では複数のホテル、集合住宅が建設を待っていると聞きました。当地のビルすれすれにカーブしながら着陸したという名物空港の名残はないか、廻りを見回しました。周囲の高層ビルに混じって、低層の外壁面にスケールアウトした文字の跡を見つけ、離着陸する航空機に向けたサインだと納得しました。後で調べると、滑走路のサイン保存や紙飛行機のオブジェがあるようで、目撃できなかったことが残念でした。島に戻るスターフェリーでは、本土、島の両方のネオンを鑑賞することができました。日本の夜景との違いは、光の強烈な色彩と外壁を縁取る光に動きがあることです。かのI.M.ペイの中国銀行も三角形の縁取りを光線が走り回っていました。
色彩については相当気にかかりました。全体に霞がかかり景観に色彩のメリハリが少ないと感じたのは、出国前の期待が大きかったからだけではないと思われます。晴れた日でも海の色がくすんでいるように感じ、中国本土のPM2.5の影響との現地担当者の話がありました。むしろ雨天の方がクリアに感じられ、周囲に話を聞くと、やはり雨上がりが最もクリアに見えるとのことでした。移動中の交通機関でも清掃の行き届かないガラス越しでその思いは強まりました。そのせいなのか国民性なのか、外壁などに使用される色彩が日本よりも強いと思われます。街並みを眺めると、住宅の外壁から突き出すように干された洗濯物は多くはないが見ることはできました。集合住宅は、日本のようにバルコニーありきではなく、窓が外に面しています。現地の方に聞き、バルコニー付きの住宅もあることはあるが、同じ面積ならバルコニーとしてではなく、室として活用できる住宅を買うと聞き、その需要に応じてか、バルコニーのない住宅比率がかなり多く感じられました。香港も観光資源開発でしょうか、次週にフォーミュラE選手権が予定されているようで、仮設観客席が公道に向けて設置されていました。 |