JIA Bulletin 2023年夏号/海外レポート

ロサンゼルス―2026ワールドカップ・2028オリンピックに向けて―

チアヤ ヤスノリ

 2020年3月コロナ禍で一変した日々から3年が経ち、リモートワークから、事務所通勤する日常にすっかり戻りました。コロナ前には、100年来の好景気と言われたカリフォルニアの建設業界も少し落ち着きを取り戻したように見えます。

 ロサンゼルスの街全体を見渡すと、アメリカ、カナダ、メキシコ、3ヵ国の共同開催となる2026年サッカーワールドカップ、2028年のロサンゼルス・オリンピックに向けて、着々と準備が進行しています。

イングルウッド(INGLEWOOD)

 コロナ禍の真っ只中の2020年秋、イングルウッド市に完成したSo-Fiスタジアム。本来はNFLの2チーム、LA RamsとLA Chargersのホームスタジアムなのですが、サッカーワールドカップの会場として使われます。サッカーワールドカップは全米各地とカナダ、メキシコの全11都市のスタジアムで試合が開催されます。このスタジアムは、FIFAの方針で期間中はLos Angeles Stadiumと呼ばれます。ロサンゼルス国際空港の東側、空路の真下となるスタジアムは、高さを抑えるためにフィールドは地下にあります。外から見ると、7万人以上収容可能な座席エリアは、室内のドーム球場のように錯覚するのですが、構造上独立したキャノピーがフィールド全体を覆っているだけで、風が吹き抜けます。フィールド上部には、巨大なLEDスクリーンが設置され、どの席からも映像を見ることが可能です。最新のレポートによると、FIFAの規定で定められたフィールドの幅を確保するには、ワールドカップの決勝戦に必要な8万人と定められた座席を設置できないことが分かり、決勝戦はダラスかニューヨークで行われる可能性があるようです。

建設中のSo-Fiスタジアムを機内より撮影(2019年10月)

建設中のSo-Fiスタジアムを機内より撮影(2019年10月)

 さらに、2028年ロサンゼルス・オリンピックでも、スポンサー名を使わずにSo-Fiスタジアムで開会式と閉会式が開催される予定となっています。ただし、1932年と1984年のオリンピックで開会式会場となったLos Angeles Memorial Coliseumも同様に開会式・閉会式会場と記されているので、最終的にどちらか1箇所に絞られるのか、あるいは、演出上2つの会場となるのでしょうか。

 イングルウッド市は、近年積極的にスポーツ施設を誘致しており、NBAプロバスケットボールClippersの本拠地Intuit Domeも建設中。プロの施設だけでなく、近隣の人々が使えるテニスコートや野球場なども整備されています。何よりも、空港からのアクセスに便利な立地条件は魅力的です。

So-Fiスタジアム内部、上部には巨大なLEDスクリーンが設置されている

So-Fiスタジアム内部、上部には巨大なLEDスクリーンが設置されている

ロサンゼルス国際空港(LAX)

 ロサンゼルス国際空港は、西側に太平洋を望むビーチ、北と南は住宅街が隣接していて、滑走路の拡張は地理的に困難な上に、各空港ターミナルへのアクセスに公共交通機関がなく、車のみという不便な空港でした。コロナ前の混雑時には、空港アクセスの入り口から1番奥に位置する国際ターミナルまで、通常なら5~10分ほどの距離を1時間以上かかったこともありました。そのような状況を改善すべく、2019年春、APM(Automated People Mover)と呼ばれるシステムの建設に着工しました。3つの駅が各ターミナルに繋がり、計画中のターミナルが完成すれば、さらに1つの駅が空港内に加わります。空港外に新設される3つの駅は、一般駐車場、メトロへの乗換駅、終点はレンタカー各社の駐車場に隣接します。本来の予定より遅れているようですが、2024年に完成すれば、24時間APMで空港にアクセス可能となります。現在、空港内は至るところで工事中なので、足場や工事車両ばかりです。

 さらに、増加する国際便に対応するために、West Gates国際線ターミナルが2021年に増設されました。店舗が充実している今までのターミナルから地下通路で繋がっていますが、余裕をもって移動しなければゲートにたどり着くまで5分以上かかる距離です。

ロサンゼルス国際空港、左の国際ターミナルとブリッジで繋がる新設駅が右手

ロサンゼルス国際空港、左の国際ターミナルとブリッジで繋がる新設駅が右手

空港全景、ターミナル工事のクレーンが見える

空港全景、ターミナル工事のクレーンが見える

右の高層ビル群がLAダウンタウン、中央奥に降り積もった雪山が見える

右の高層ビル群がLAダウンタウン、
中央奥に降り積もった雪山が見える

光と陰

 他にも市内では、Herzog & de Meuronによる LACMA(ロサンゼルス カウンティ美術館)が進行中。大通りWilshire Boulevardの上にブリッジ状に覆い被さる部分が、ストリートスケープを一変するはずです。MAD Architectsが設計したLucas Museumは、Los Angeles Memorial Coliseumに隣接していて、2025年に完成予定です。

 それらのような巨大なプロジェクトの整備が進む街並みの陰で、ホームレス問題は深刻化する一方の様子。近年は、フリーウェイの高架下、法面、住宅街の一画にある公園などにもテントが並んでいます。あるいは、駐車禁止のサインがない通りにモーターホームを駐車し、ずっと同じ場所で生活している人々もいて、周りには生活道具が並べられていたりもします。高騰した不動産価格は下落傾向にあるものの、数年前に比べて住宅ローン金利は上昇しているので、大都市での住宅購入は難しくなるばかり。相変わらず続くインフレの影響で、建設資材だけでなく、労働賃金も高止まりしたままです。不透明な世界情勢、金利上昇等も影響しているのか、ロサンゼルスでは空き地のままの敷地も点在しています。

 コロナ禍によってなくなったフリーウェイの渋滞は、ほぼ逆戻り。コロラド川の水位低下などによる南カリフォルニアの干ばつは、何年も続いたままです。ネバダ州ラスベガスでは、昨年より危機的な水不足に陥っています。そんな状況のなか、今冬は雨や嵐が毎週のように続いているため、干ばつ状態が少し解消されたようです。例年なら冬でも晴天が続くロサンゼルスで、今年3月には雹(ひょう)まで降ったのですから驚きです。数日前には、ロサンゼルス・ダウンタウンから東に車で10分ほどの街で竜巻が発生しました。このような悪天候が毎週続くので、地滑りや道路の陥没、山間部での積雪による道路封鎖など、降雨、降雪対策は脆弱な街であることが露呈しています。やはり、気候温暖化が進行しているのでしょうか。

 そのような背景を考慮してか、今年から、カリフォルニア州のアーキテクト登録更新に、今までのバリアフリー、ADA(Americans with Disabilities Act)に加え、ネット・ゼロ・カーボン・デザインの講習が必須となりました。CO2排出量の削減、LEEDを通して、サステイナビリティーが浸透してきた建設業界ですが、温暖化対策にはまだまだ十分ではないということなのでしょう。

 グッゲンハイム・アブダビ など、フランク・ゲーリーのプロジェクトは世界各地で進行中です。ディズニーコンサートホールの南東に位置するThe Grand LAは、昨年完成しました。 90代半ばになっても、フランクは、クライアントとミーティングしたり、模型を眺めながらプロジェクトのスケッチを描いたりと、毎日元気に事務所内を歩き回っています。

チアヤ ヤスノリ プロフィール

2006年より ゲーリー・パートナーズ勤務、シニア・アソシエイト
カリフォルニア州登録アーキテクト