JIA Bulletin 2025年夏号/海外レポート

アブダビ日本人学校に勤務して

滝澤富明

 アブダビ日本人学校は、世界に94校ある日本人学校の1つで、唯一公的に認められてU.A.E.国民(エミラティ)のお子さんを受け入れています。
 皆さんは「日本人学校」についてご存じでしょうか。国内の小・中・高等学校と同等の教育を行うことを目的とし、現地の日本人会や進出企業の代表者、保護者の代表などからなる「学校運営理事会」が運営しています。教員は文部科学省から派遣され、2024(令和6)年4月現在、世界49ヵ国・1地域に94校設置されています。原則、日本の学習指導要領に基づき、教科書は日本国内で使用されるものが用いられています。現地の文化や歴史、地理など、現地事情にかかわる授業や現地校との交流も進めています。基本的には日本語を介した教育を展開していて、日本国内と同じく、日本の文化や慣習等を背負った日本人の教員が教育を行います。児童生徒は、日本語で各教科・領域等の学習を受けます。ですから、日本から赴任された駐在の方のお子さんは安心して学校に適応でき、数年後に帰国される際は、日本の学校に復帰し、進学しやすいと考えます。もちろん、現地の学校やインターナショナル校を選択される方もいらっしゃいます。

アブダビ日本人学校

アブダビ日本人学校

 アブダビ日本人学校があるU.A.E.について紹介します。アラビア半島の東、アラブ首長国連邦(U.A.E.:United Arab Emirates)は、7つの首長国(アブダビ、ドバイ、シャルジャ、ウムアルクワイン、アジュマン、フジャイラ、ラスアルカイマ)からなる連邦国家です。面積は北海道と同じくらいで、1971年12月建国、53年の比較的若い国です。人口は1980年に100万人、2022年には1000万人に達しました。エミラティはその12%、他は外国人で、インド人、パキスタン人、バングラデシュ人、ネパール人、スリランカ人など南アジア出身者が50%、その他多くの国から集まっています。

約5万人収容可能なグランドモスク

約5万人収容可能なグランドモスク

市街地中心のモスク

市街地中心のモスク

 外国人労働者が多く、25~39歳の男性がその3割を占めます。日本人は約4,500人います。日本との結びつきはとても強く、石油の輸入相手国としてU.A.E.は第1位(2024年)で、U.A.E.から見ると日本は輸出国第2位(10%)、輸入国第4位(4%)です。日本車が多く走っており、アブダビのタクシーはほとんどが日本製です。
 砂漠の国で、今年5月は日中50.4℃を観測しました。市街地の治安はよく、夜一人で歩いていても危険は全く感じません。アブダビ市はU.A.E.の首都であり、アブダビの首長がU.A.E.の大統領を担っています。

アブダビの街を見下ろす

アブダビの街を見下ろす

 U.A.E.には本校のほか、ドバイ日本人学校があります。アブダビ日本人学校は、日本国大使館付属学校として1978年4月に設立され、創立48年目の学校です。2025年4月現在、小学部49名、中学部16名の計65名が学んでいます。国籍は日本人35名、アブダビ人(エミラティ)30名とほぼ同数です。日本人は、駐在員のお子さんのため、数年で帰国する場合が多いですが、エミラティは幼稚園部も含めて12年間日本語での学校生活を送ります。
 職員は、担任をしている日本人教員が9名、児童生徒を支援する教員が7名、その他渉外、事務員、セキュリティ等合わせて40名超の職員が勤務しています。日本の各都道府県で勤務経験がある我々教員は、日本の教科書や副教材(スキル帳やワークブック、単元テスト等)、ICT機器等を駆使し、日本語で授業を行います。昨年度より一人一台端末が児童生徒に貸与され、授業中はもちろん、家庭学習でもアプリを活用したり、協働的な学習を推進しています。例えば、これまでは紙ベースのドリル帳や問題集を中心に使用していました。しかし、端末を活用することで、担任がアプリで事前に予約配信し、朝学習や授業中、家庭学習などで児童生徒が問題を解いたあとは、一人一人の取り組み具合や正答率、苦手な問題の把握を教師側の端末で確認し、次の指導に役立てています。
 なぜエミラティが公的に受け入れられているのか。それはアブダビ教育庁の意向を受け入れていること、日本の国と企業の理解が深いことが理由です。先に述べたように、アブダビ首長国と日本の国の結びつきが強いことも要因です。12年間の課程を修了すると、一定の成績を上げたものは学校推薦を受け、日本の支援を受けながら日本の高等学校・大学へ進学します。学問の習得はもちろん、国の期待を受け、将来日本とU.A.E.(アブダビ)の懸け橋になることが期待されています。エミラティの保護者の、日本人学校に対する日本式教育への期待は高いです。また全児童生徒に対して、グローバル人材育成を目指し、日本の教育課程に加えて英会話学習やアラビア語学習も重視しています。

 エミラティと日本人が在籍している学級での学習は、教員として難しい面もあります。エミラティは母語のアラビア語、日常社会で使う英語での会話はスムーズにできます。しかし、当然、日本語はアラビア語や英語とはかなり異なり、日本語で学習するには相当な苦労があることは想像できると思います。
 授業日の学校生活はアラビア語や英語ではなく、日本語での会話はもちろん、日本人と同様、読み書きも習得しています。私たち日本人は英語を駆使することも大変なのに、もしアラビア語で話さなくてはならなかったとしたら、相当困難なことが想像できます。ですから、エミラティの児童生徒には、「3つも言語が使えることは凄いね」と伝えています。エミラティ一人一人と話してみると、優しくて親切な面、熱心に取り組む面は日本人と似ています。しかし当然、両国の文化や慣習の違い、ものの見方や考え方は大きく違っているため、うまくいかないこともあります。エミラティの保護者は日本語を話すことができないため、家庭において学習に対するアドバイスがしにくく、また各家庭にメイドがいて、子どもの教育はそのメイドが相当部分担っていることも多く、宿題や家庭学習に取り組むことが難しいようです。また、日本と同様、ゲームやネットを使う時間が多いことも悩みの種です。国語、算数などの教科の学習も難しいと思いますが、特に社会科の授業は、日本の公民、歴史、地理を学ぶため困難が伴います。私が受け持つ理科も同様で、計5学年指導していますが、砂漠の国には存在しない日本特有の植物や動物、日本の気候、災害(台風、地震はU.A.E.にはないそう)など、未体験の学習事項があるだけでなく、日本人でも難しい元素名や岩石名等の理科用語を日本語で身に付けることは困難なことです。授業中にエミラティ同士で英語やアラビア語で会話することもありますし、学習が思うように進まずに、ストレスがたまることもあります。

大型モニターを使った理科の授業

大型モニターを使った理科の授業

日本人とエミラティが一緒に学ぶ

日本人とエミラティが一緒に学ぶ

 また、エミラティは国策によって経済的に恵まれていることもあり、「私のペン、カバン、……は〇〇(某有名ブランド)です。先生はなぜそれらを持たない?」などという会話がなされます。裕福であり、経済的に満たされているのです。私たち教員は、そのような文化や慣習の違いを慮り、その心情や困難さを理解し、寄り添ったり褒めたり、時には厳しく指導しながら学習活動を進めています。日本の学校でも外国籍の児童生徒が増えていますが、その子の背景や日本語でのコミュニケーションが図れないことを踏まえた教育活動を行っています。もちろん、日本・アブダビの文化・社会・環境を学ぶための現地理解教育として、消防署や工場、水浄化施設の見学や、マングローブ植林体験等にも取り組んでいます。このようにアブダビ日本人学校では、日本人もエミラティもお互いを理解しながら一緒に学んでいます。

 私は2003年から3年間、南米パラグアイ共和国アスンシオン日本人学校にも派遣されていました。その頃一緒に学んだ児童生徒は、社会人として現在、建築士、旅行社社員、サッカーJリーグの通訳、外国語や数学の教員などとして活躍しています。現在のアブダビでの児童生徒、もちろん日本人もアブダビ人も、その将来の活躍を期待しながら接しています。私たち日本人学校教員・職員は、その一人一人の可能性を高める、深める、伸長するため、連帯して教育活動を行っています。

滝澤 富明(たきざわ とみあき) プロフィール

アブダビ日本人学校 教員
新潟市出身。新潟県内の小学校教員歴35年(2003~2005年度はパラグアイ共和国アスンシオン日本人学校)。2024年4月からアブダビ日本人学校に派遣。