JIA Bulletin 2017年3月号/覗いてみました他人の流儀 | |||||
澤山 乃莉子(さわやま のりこ)氏に聞く |
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澤山 乃莉子氏 |
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今回お話をうかがうのは、ロンドンをベースに活動されているインテリアデザイナー澤山乃莉子さん。住宅、ホテル等のインテリアデザインから家具デザイン、また企業やホテル、レストランなどのデザインコンサルティングも手掛けられています。近年は日本のプロ向けに、独自に開発したプログラムによるインテリア私塾を主宰し、インテリアデザイナー育成にも力を注いでおられます。(聞き手:Bulletin編集委員) ―もともとインテリアデザイナーを目指していたのでしょうか。 大学では地理学を勉強し、学芸員と測量の資格を取りました。卒業後、日本航空CAになり、世界の30ヵ国で約40都市を訪れました。ひと月のうち20日以上がホテル暮らしという環境の中、その魅力に惹かれてホテルに関連したクリエイティブな仕事がしたいと思うようになりました。幸運にもホテル西洋銀座の開設準備室に誘っていただきコアメンバーとして開業に携わり、その後起業してホテルのサービスと人材のマネジメントコンサルタントとなりました。バブル崩壊後ある都内のホテルで250人体制を150人体制にするプロジェクトに関わった際、空間を考えることが非常に重要で、空間心理学を勉強しました。このプロジェクトを2年間かけてやり終えた時に、ちょうど夫の転勤で子供を連れてロンドンに行くことになりました。1995年35歳の時です。 ―ロンドンでインテリアデザインの仕事を始めた経緯を教えてください。 ロンドンはインテリアが人々の生活の中の重要な要素であり、大きな市場でもあります。またインテリアを勉強できる場が非常に多いのです。私はいずれホテルの仕事に戻るつもりで、インテリアデザインの勉強をしたら強い武器になると思って始めました。実際やり始めると面白くてどんどんのめり込んでいきました。じつは子供の頃からインテリアが趣味で、ホテルコンサル時代にコーディネーターの勉強もしていたのです。ロンドンで学んでみて、日本とはなんて違う世界なんだ、仕事にしてもいいと思いました。約5年間、大学やカレッジで建築、照明学、ソフトファニシング、デコラティブペイント、アートディレクションなども学び、2001年に起業しました。これらの総合力でインテリアデザインをしています。 ―今までの経験が生かされているのですね。 インテリアデザイナーはある程度クライアントのライフスタイルに踏み込まないといけません。ですから、人生経験とコミュニケーション力に長けていないと難しい職業です。またある意味で、前職に情熱をかたむけていた人の方が、ビジネスマンとして別の分野でも成功する人が多いので、これはイギリスでは普通の流れです。 ―イギリスでは日本のように新築が多くなく、改修することのほうが多いのでしょうか。
イギリスでは改築9割、新築1割で、ほとんどが改修物件です。築100年を超えたものから値段が上がります。 ―欧州の中でも特にイギリスのインテリアは、格式や伝統が重んじられるのでしょうか。 イギリスでは、インテリアデザインも含めた建築やアートは、人類がつくりあげたもっとも尊いものだという感覚を持っています。ですから、古い建築をリスペクトしながら、新しいものをクリエイトするのがデザイナーの仕事です。新しいことを恐れないし、評価する土壌もできています。その新旧を混ぜ合わせたおもしろさが評価の対象になります。イギリスでは住宅を売る時はインテリアデザインが必ず完成していなくてはなりません。ですからインテリアデザインと建築は必ずセットになっています。 ―澤山さんの主な活動はロンドンですか。 会社のベースがあるのはロンドンです。年の4分の3はロンドンで、残りは日本です。クライアントは商業系も住宅系もいろいろあります。ここ数年1,000m2を超える新築住宅等を手掛けていますが、グランドデザインは私が描き、その後建築家や構造、積算などのプロとの協業によりプランを完成させ申請に進めます。インテリアデザイナー先行の設計です。
―欧米では、インテリアデザイナーやランドスケープアーキテクトなど、細かく分業されていますね。 イギリスでは建物に対する制約がとても多いので、建築家だけでは手が回らないことも理由のひとつだと思います。分業制だとお互いにものすごく議論をしますが、そこからしか生まれない良い形が必ずあって、その瞬間を私は毎回経験しています。ですから、建築家の方たちも、自分たちのスキルだけでは考えつかないことを私たちが示していると認識してくれているのでしょう。お互いがリスペクトして仕事をしているので、このやり方になんの躊躇もありません。 ―チームを組むことが当たり前なのですね。 イギリスのインテリアデザイナーは空間に始まりフィニッシングタッチまですべて扱えなくてはならないし、それを図面で表現し、法に則りチームを率いてプロジェクトを進め、保険も管理するなど、総合的な手腕が必要です。イギリスのインテリアデザイナーの職能・職域を確立し、維持向上するBIID(英国インテリアデザイン協会)は、約100項目の書類と面接で会員希望者を審査します。これくらい厳しく、またそれが世の中に周知されているからこそ、王立建築家協会(RIBA)とBIIDは協業し、お互いにリスペクトする関係ができています。 ―日本のインテリアコーディネーターは家具会社や住宅メーカーに属している人がほとんどです。
現状、日本のインテリアコーディネーターの知識やスキルは非常に限定的です。成果物を見るにつけ、セオリー教育が欠落している事実は明白です。加えて資格を取ってからの教育整備が立ち遅れているのが現状です。一方で建築家がインテリアに対して理解があるかというとそうとも言えない。セオリーや技術を共有できない状況では、インテリアと建築のプロが協業できないのは当然だと思います。 ―ロンドンオリンピックを経験されましたが、私たちは東京オリンピックで何ができるでしょうか。 ロンドンオリンピックの真のレガシーは、デザイン、クリエイティブ産業にこそあったと実感しています。イギリスはオリンピックまでの4年間、自国のデザインアイデンティティを確立することにすべての業界とプロが注力し、その結果、デザインは革新的に進化し、クリエイティブ産業は輸出基幹産業の地位を確立しました。ですから、東京オリンピックが文化アイデンティティを明確にする絶好のチャンスと捉えるべきではないでしょうか。 ―貴重なお話をいただき、ありがとうございました。
インタビュー: 2016年11月14日 東京デザインセンターにて
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