JIA Bulletin 2018年夏号/覗いてみました他人の流儀
tupera tupera 亀山達矢かめやまたつや氏に聞く
「子ども心で絵本を楽しむ」
亀山達矢氏

 tupera tupera(ツペラ ツペラ)は亀山達矢さんと中川敦子さんのご夫婦によるアート制作ユニット。絵本やイラストをはじめ、工作やワークショップ、テレビ番組制作など幅広く活躍されています。とくに絵本はカラフルな色づかいとユーモアに溢れた内容で、子どもだけでなく大人にも大変人気があります。今回は、亀山さんに絵本制作への想いや裏話などを話していただきました。

―絵本を作るようになったきっかけを教えてください。

 美大を卒業した後、絵を描いたりして1人で創作活動をしていくつもりで、たまにtupera tuperaというユニットを2人で組んで、クッションやTシャツなどの服飾雑貨を作っていました。作品を気に入ってくれたお客さんに「絵本は作らないの?」と言われることもありましたが、物語を考えなければ絵本はできないという勝手なイメージがあったので、当時は絵本を作る気はまったくありませんでした。
 そんな活動を2年くらい続けていたら、3つの大きなきっかけが重なりました。ひとつは、洋書の絵本との出会い。デザイナーが作った絵本などを知る機会があり、置いてあるだけでとてもかっこいいのです。ふたつ目は五味太郎さんとの出会い。五味さんとはある忘年会で隣になったのをきっかけに親しくなりました。もちろん五味さんの名前は知っていましたが、実はそれまで五味さんの絵本を読んだことがなくて…。五味さん以外の絵本もほとんど知りませんでしたが、その時初めて物語ではない絵本があることを知り、日本の絵本にもこんなものがあったのかと驚きました。それから、チェコの絵本作家クヴィエタ・パツォウスカの絵本との出会い。彼女の絵は赤と黒の使い方とデザイン性が抜群で、一気に心を摑まれました。
 その3つの出会いが同時期にあって、絵本って面白いなと思うようになり、自分も作りたくなりました。
 最初は『木がずらり』*という絵本を自費出版で1,000部作りました。当時東京の三鷹に住んでいて、自宅近くの東八道路を歩くと遠くの方にさまざまな形の木が並んでいるのが見えました。そこからイメージして、本を広げると並木道が広がる、ジャバラ状の立てて飾れる絵本にしました。

*『木がずらり』は現在はブロンズ新社から発売中

―ほとんどの絵本が貼り絵でできているのですね。

 もともと手作業でその場でできていくのが好きなんです。それまで布でパッチワークしていたのを紙に持ち替えただけ。でも貼り絵でもすべて同じ技法を用いているのではなく、1冊ずつ本のアイデアをうまく表現できるように作る技法を変えています。たとえば『やさいさん』(学研プラス刊)の場合、野菜の質感を絵の具で表現しました。大根っぽい紙をローラーで作ったり、玉ねぎの薄皮はペインティングナイフでとか。『おばけだじょ』(学研プラス刊)では、透明のシートを買ってきて、カラートレーシングペーパーを後ろの光源に置いてみて影絵で作っています。なので15年間絵本制作をしていますが、常に新鮮な気持ちでいられるし、まだまだいろいろな表現にチャレンジできると思っています。

―作品のアイデアはどのように生まれるのでしょうか。

 アイデアは僕が出すことが多いのですが、アイデアが出た瞬間が一番興奮していて、その後の過程は手作業が好きと言いながらも正直しんどい時もあり、早くできないかなといつも思います(笑)。僕たちの絵本は自分たちが単純に面白いと思うものをかたちにしているだけで、作品にとくにメッセージ性はありません。僕は子どもをびっくりさせたりするのが好きで、アイデアもそんないたずら心から生まれます。
 『しろくまのパンツ』(ブロンズ新社刊)は、まず絵本にパンツを履かせてみたいと思い、表紙にパンツの帯を履かせることを考えました。絵本を開くにはパンツを脱がさなくてはならないので、しろくまのパンツがなくなったところから物語を始めることにしました。
 子どもからヒントをもらうこともあります。工作の連載をしていた頃、娘がまだ2歳くらいで、財布からカードを抜いて遊んでいました。抜くのが楽しいんだったらと、家にあるクッキーの箱を茶色く塗って畑にして、野菜を引き抜くような手作りおもちゃにしました。それが後に『やさいさん』『くだものさん』(学研プラス刊)などのめくりながら読むフリップブックのヒントになっています。


画像1 tupera tupera作の絵本。これまでに30冊以上の絵本を制作しています。
現在、うらわ美術館で「ぼくと わたしと みんなの tupera tupera 絵本の世界展」を開催中(8/31まで)

―『パンダ銭湯』では大人も衝撃の、パンダの秘密が暴かれています(笑)。

 『パンダ銭湯』(絵本館刊)は、家でテレビを見ていたらパンダが出ていて、ずっと見ていたら目の部分がティアドロップ型のサングラスに見えてきて…。パンダってうさん臭いぞ!ほんとにかわいいのか!と。しかも黒いチビTを着てスパッツをはいているようにも見えてきて、それならこれを脱がして秘密を暴いてやろうと、パンダが銭湯に行くストーリーが生まれました。この時は貼り絵でパンダを96体作らなくてはならなくて本当に大変でした。もうしばらくパンダは作りたくありません(笑)。

―こちらの想像を超えたストーリー展開も魅力です。

 くだらなかったりバカバカしいのが大事だと思うんです。笑ったりいたずらできるたびに平和だと思います。
 絵本ていいんですよ。僕は日々子どものために活動しているわけではありません。子どもも大人もすべての人に共通していることは何かわかりますか? それはみんな子どもを経験してきているということ。年を重ねて大人になってもみんな内側に子どもがずっとあって、僕はその子ども心も含めて作品作りをしていると思っています。
 だから絵本は決して子どもがテーマなわけではなくて、すべての人の子どもの部分がテーマなんです。絵本はコミュニケーションツールだから、大人が子どもに読んだり、子どもが大人に読んだり、大人が大人の子ども心に読んでもいいはずです。誰もが絵本の面白さを楽しんだ方がいいと思うし、大人にこそ絵本を楽んでもらいたいです。
 それから、僕らの絵本はお父さんがとても読みやすいようですね。だいたい近年の作品のいくつかは、中学生男子のような発想とノリで作っていたりもしていますから。『うんこしりとり』(白泉社刊)とか、昨年出したパラパラマンガ『うーん、うん』(青幻舎刊)でもうんこが出てきたり(笑)。それから文字数が少なくてシンプルだからすぐ読めてしまう。シンプルだからこそ、読み手がその余白をちゃんと埋めることができると思っています。
 例えば、『やさいさん』で野菜を土から引っこ抜く場面で「すっぽーん」という台詞があります。「すっぽーん」だけだとその人なりの「すっぽーん」が見られる。それがお父さんに委ねられるので面白いですよね。委ねられるというのは、読み手が自分を入れることができるのですごく楽しいし、読み手も楽なんです。

 


画像2 『やさいさん』(学研プラス刊)
「やさいさん やさいさん だあれ」「すっぽーん」と言いながら
ページをめくって野菜を引っこ抜きます。

―ワークショップも頻繁に行っているそうですね。

 僕は工作などのワークショップによく出掛けています。ワークショップでは見学者はいないほうがいいと思っています。だから子どもと来ているお母さんに、まずお母さんがやりましょうと話したりもします。ワークショップに付いてきて何もやらずにいるお父さんがいたら、そんなお父さんにこそ楽しいものを作ってもらいたい。お父さんが楽しそうだったりかっこいいものを作るとお母さんも子どもも嬉しくて良い雰囲気になる。キーポイントはお父さんであることも多いです。お父さんの子ども心をいかに引き出すか、そういう想いも込めています。

―最後に、建築家に伝えたいことはありますか。

 今までの作品は僕たちが勝手に作ってきたわけではなくて、毎回いろいろな人と一緒に考えながら化学反応してきました。だから出版社や編集者、印刷所、製本所、読者もみんな大事で、絵本作りは一冊ずつ本当に面白いです。僕は一緒に楽しめる人、興味のある人だけでコミュニティが広がれば十分で、そういう人たちと組んで集まってしっかりと楽しむことが大事だと思っています。ものづくりは関わるすべての人が楽しんでいるのがいい。だからこれからも本当に共感してくれる人を大切に作品作りを楽しみたいと思います。

―貴重なお話をいただき、ありがとうございました。

 

インタビュー: 2018年2月22日 セルリアンタワー東急ホテル ガーデンラウンジ「坐忘」
聞き手:有泉絵美・中山 薫(『Bulletin』編集WG)

■亀山 達矢氏プロフィール

tupera tupera

1976年三重県生まれ、京都府在住。
武蔵野美術大学油絵学科版画専攻卒業。
2002年から中川敦子とともにtupera tuperaとして活動。絵本やイラストをはじめ、工作、ワークショップ、舞台美術、空間デザイン、アニメーション、雑貨など、さまざまな分野で幅広く活動している。絵本に『かおノート』『やさいさん』『うんこしりとり』『パンダ銭湯』『しろくまのパンツ』など多数。NHK Eテレの工作番組「ノージーのひらめき工房」のアートディレクションも担当。

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