JIA Bulletin 2019年冬号/覗いてみました他人の流儀
田中裕治氏に聞く
「どんなに困っている不動産でも
 必ず価値を見出せる」
田中裕治氏

今回は、不動産会社 株式会社リライトの田中裕治さんにお話をうかがいました。土地の活用や売却に困る所有者が増えて空き家問題も深刻になっている今、田中さんは売りづらい不動産物件を多数扱ってこられ、全国からの相談に応えています。難しい物件をどのように売買するのか、空き家についてどのように考えておられるのか、建築家とは違う視点でお話しいただきました。

―どのようなお仕事をされているのでしょうか。

 メインの仕事は、他の不動産会社が扱いづらい物件を買って売却する買取再販です。大学卒業後、東急リバブルで不動産の売買仲介をしていました。当時いつも思っていたことは、不動産の仲介は当事者ではなく売り主と買い主の間に入っているだけだということ。次第に売り主になって物件を売ったり加工したりしてみたくなり、10年勤めた会社を辞め、買取業者で1年間修業して独立しました。他でゼロ評価の不動産に100万円なり、1,000万円なりという価値を見出せれば、少ない投下資金で利益を出すことができます。
 一方で、売買仲介もしています。独立当時、那須塩原の200㎡の温泉付の土地の売却依頼がありました。立地などから高く売れると思ったのですがなかなか売れず、徐々に値段を下げて、結局売れた時は5万円でした。仲介手数料より交通費の方が高くついてしまった。そのことをホームページに載せたら、全国から問い合わせがきたのです。皆さん、他の不動産会社では扱えないと断られ、インターネットで調べて私のところに相談にいらっしゃいます。

―どのような相談が多いのでしょうか。

 売るのが難しく、固定資産税を負担するだけの不動産を手放したいという相談が多いですね。自分の代でなんとか手放したいとか、ご子息に急かされて相談に来られる方もいます。今は全国の物件に対応し、これまでに約25県で仕事をしてきました。誰かがやらなくてはいけませんから、ボランティアでやっているような部分もあります。先日、当社で扱う東伊豆の1円の別荘がメディアで話題になりましたが、これもほぼボランティアで、売買仲介はするものの仲介手数料はいただいていません。
 それから、不動産知識やこれまでの経験を生かしてコンサルティング業もしています。物件が売れるのを待つのが不動産会社で、コンサルは売りにいく、売れる状態にもっていくというイメージでしょうか。まわりがゼロ評価でも、1,000万円に価値を上げられるものだと思えばその仕事は引き受けますし、それを売れる状態にするのがコンサルティングです。その場合は、仲介手数料とは別にコンサルティングフィーをいただきます。

―コンサルをすることで、相手に寄り添って進めていくのですね。

 相談に来られたら、まずはどうやって高く売るかを考え、それがうまくいかなかったら次はこれ、それでもダメだったら最終的にこの金額になると事前にきちんと説明します。もともとゼロ評価の物件なら、高く売れれば売り主も嬉しいですし、私はコンサルという立場で資金を投下するリスクがなく、それで報酬がプラスになったらいいですよね。
 その他に、簡単に扱うことのできない農地や分家住宅も、行政書士の先生に協力していただき、第三者でも使えるように許可を取って売却したりもしています。

―他の不動産会社が売れないものを、どのように売るのでしょうか。

 インターネットで募集をかけると、安い物件はだいたい問い合わせがきます。他の不動産会社はおそらくきちんと営業をしていなかったか、売り方を知らなかったのでしょう。都内は物件がいいので、FAXで一斉送信すればその中から買う人が出てくるような状況ですが、地方では地道な営業努力が必要で、私もご近所を一軒一軒回り、売りたい状況を説明します。
 それから、売買仲介の場合、私はあくまで仲介という立場なので、売り主と買い主それぞれにプラスになることを伝えたり、双方が気持ちよく取り引きできるように話をします。ですから売るコツは話し方だと思っています。売り主と買い主の素人同士が相反する立場で話をしてしまうとなかなかうまくいきませんから、やはり不動産会社か第三者の誰かが間に入って仲介する意味はあると思います。
 売れない物件に多いのは別荘ですが、最近は自分でツリーハウスを作りたい人やプライベートキャンプ場にしたいなど、趣味での別荘ニーズはそこそこあります。また、自分でDIYしたいから安い物件だったら買いたいという人もいて、今までとはニーズが変わってきています。

―別荘や古い物件を扱う時、見た印象だけでネガティブな話をしてしまったり、+αの要素を加えないと売れないと考えてしまいませんか。

 もちろん売り主や買い主に物件についてきちんと説明するのは大切なことです。しかし、物件の良さがわかるのは所有者なので、それをきちんと聞かないと高く売れる可能性を逃してしまうかもしれません。マニアにはたまらない物件ということもありますから、可能性を簡単に潰さず、一緒に考えていきたいですね。
 資金力がある人だったら手を加えて売る方法もありますが、資金がないのにお金の負担だけしているから困っているというケースが多いです。だったら不動産会社などが1度買って手を加えて売ればいいと思うかもしれませんが、そこに資金を投じるのはリスクです。ですから、そういうケースに応える方法を建築業界と一緒に考えることが解決策につながるかもしれません。

―建築家がデザインすることで付加価値が上がり、売り買いに影響することはないのでしょうか。

 設計者や設計会社が付加価値になることは、中古物件の場合非常に難しいです。でもその良さが伝わればその分高く売れる可能性はありますから、設計者情報に加えて、メンテナンス方法や利点の伝え方が明確になるといいですね。

―空き家問題については現状をどう捉えていますか。

 ビジネスチャンスだとは思いますが、その解決策がわからないのでどうしたものかと思っています。空き家は年々増えていて、地方に行くとさらに深刻な状況です。
 空き家は最終的にはみんな相続放棄してしまって所有者がいない土地になってしまうのではないでしょうか。所有者のいない土地は国のものになりますが、持っている土地を手放したくても今はまだその手続きが整備されていません。しかし、いずれは国の土地になり、これによって市町村は固定資産税の税収が減ってしまい、街が成り立たなくなって消滅していってしまうでしょう。

―空き家に対してできることはないのでしょうか。

 先日行った今治は商店街がまったく開いておらず、食事をするところもありませんでした。しかし一方で熱海など元気が出始めているところもある。空き家は増えてもやり方次第で街は元気になるし、街が元気になると不動産価値も上がってくるはずです。私がもし地方に住んでいたら、自治体の職員になって不動産の買取再販をして税金を増やし、街を良くしていきます。今は役所は不動産を受け取らないのでできませんが、それが可能になれば面白いと思います。
 それから、不動産売買の仲介手数料の上限が撤廃されれば、空き家も動く可能性があります。仲介手数料は上限が成約価格の3%+6万円と決まっています。しかし、1円の物件に仲介手数料はもらえません。不動産会社は仲介手数料が十分でなければその物件を扱いたがりませんから、空き家を含め売りづらい低額物件は流通しなくなってしまいます。
 これからの時代、それではだめですよね。売り主の中には50万円や100万円払ってでも不動産を手放したい人がいるのです。仲介手数料の上限を撤廃すれば地方の不動産会社はみんな頑張るのではないでしょうか。不動産の動きが生まれれば、多少街は活性化すると思うのです。ただ、高額物件を扱う大手や都心の不動産会社にとっては、手数料を上限撤廃すると問題があるので、空き家や低額物件に限るのがいいかもしれません。

―売ることが空き家の解決方法のひとつですし、建築家にできることもあるかもしれません。

 売りたい人はどうしてもお金のことが先にきてしまい不動産会社に相談に来ますが、建築家にも相談できることが分かれば、先に建築業界で次に不動産会社に相談する流れができてもおかしくありません。
 売れない物件はないはずですから、いろいろな業界が協力できれば面白いですし、可能性も広がるでしょう。

―貴重なお話をいただき、ありがとうございました。

 

インタビュー: 2018年11月17日 株式会社リライト
聞き手:小山将史・市村宏文(『Bulletin』編集WG)

■田中 裕治(たなか ゆうじ)プロフィール

株式会社 リライト 代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター、競売不動産取扱主任者、
不動産戦略アドバイザー、宅地建物取引士 他

1978年神奈川県茅ヶ崎市生まれ。2001年駒澤大学卒業後、東急リバブル株式会社に入社。10年勤務ののち、買取再販をメインとする不動産会社を経て起業。現在は、市役所や区役所・NPO法人などで無料相談員や大手生命保険会社の導入研修の講師をしながら、日本全国の「他の不動産会社から売れないと言われた物件」を多数売却している。
著書に『不動産相続対策 貰って嬉しい富動産、貰って損する負動産』(ギャラクシーブックス、2018年)

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