近年の流通システムの変化に伴う、卸売業そのものの需要低下などにより、本計画敷地である卸商団地では、建物の老朽化に加え、倉庫の空きスペースの拡大、空き倉庫の増加などの問題を持つ。一方で、2003年の規制緩和、2015年の地下鉄東西線開業による住宅の需要が見込まれる中、10年間という時間を利用して既存資源を活かしたまちづくりが動き始めた。
本計画は、以下の3つのシナリオによって、新たな居住地へと転用を行う。
1.既存倉庫を共有空間「シェアード・スペース(以下、SSとする)」に転用
2.残余スペースへ住空間を挿入
3.倉庫のもつヴォリュームを活かした集住体を形成
具体的には卸町1丁目6番地をモデル街区として、団地内全274の倉庫について配置特性の抽出・データベース化を基に、残余部分に住空間を挿入することで街区を再構成し、既存倉庫の空間特性を活かした住人の共有空間「SS」として転用を計りながら、卸町のモデルとなる集住体を提案している。4つのタイプの「SS」に挿入されたメザニンを介して住戸へアクセスし、既存倉庫はアクティビティを喚起する空間へと再活用される。これらの倉庫群は「SS」としてその後も住人とともに活用され、その価値は変化していくことだろう。
こうした物語の中で出来上がる風景は、従来の計画手法とは全く異なるアプローチから導き出されたものであり、都市のもつコンテクストを深く読み取り、既存のものを活用しつつ新たな考え方を重ね合わせていくという今までにない方向性を示唆すること、そのものが次なる卸町の風景に必要であると考えた。
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