一昨年、一年のオランダ留学の間に欧州各国の都市や建築を実際に体験する機会を得た。東京に暮らしていると忘れてしまいがちだが、世界中見渡せば、建築の技術や構法は実に多様であることを改めて思い知らされた。古来より都市空間はその土地の気候風土にあった入手しやすい材料でつくられてきている。そして、その材料の長所を活かし短所を補うような独自の都市構造や建築のディテール、そして人々の生活のしかたが培われるとそれはその都市の大きな魅力となる。東京は一部の商業地域を除けばほとんどは住宅地の海であり、その大部分は木造戸建住宅である。しかし、その表面は不燃系の建材で覆い隠され、建築を専門としない一般の人にはそれが何造であるかも伺い知れない場合が多い。そこには、材料と都市空間の豊かな関係は見られない。このプロジェクトは、木材の利用に特化した都市空間の構想である。ただし、特殊な不燃塗料を施した大断面集成材で高容積のビル群をつくろうというわけではない。かといってノスタルジックに過去の都市を再現しようというわけでもない。純粋に木材の材料としての長所や短所を引き受けながら都市空間を構想した。そうすることで都市の構造や建築のつくり方が、環境や生活様式と独自の結びつきをもって都市の風景として現れてくると考えた。 |