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都市を再びアナログ化しよう
(株)アルキメディア設計研究所/明治大学 小林正美
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現代の大都市を歩いていると,やたら歩みを止まらせられたり,急に道を渡らせられたり,ほとんど歩行のリズムがつかめないまま,いらいらして帰ってくることが多い。本来の散歩の目的を達せないまま,逆にフラストレーションだけが残ってしまう。
こうしたことはすでに19世紀に自動車が都市の重要な交通機関となってから,あたり前のように起こっているのだが,ふととんでもなく非人間的なことに気がつく。知らず知らずのうちに都市は人間の生物的,身体的なアナログのリズムを破壊し,デジタル的な効用空間になってしまっていた。こうした空間に人間が感情移入し,自分を環境にコミットしようと思っても容易ではないし,リラックスして人々とのコミュニティーを育もうという意志も揺らぎかねない状況にあるといえよう。
そう考えてみると,やはり都市の本来あるべき姿は「連続性」をキーワードとしたアナログ的世界なのではないか。そして建築家の仕事はそれを支援し,都市を実際に住む人々のための快適な空間に戻すことではないだろうか。そのために今,具体的に考えていることを少し述べてみたい。
1)界隈の復活
もともと集落が持っていた「界隈」は物理的にも精神的にも重要な役割を果たしていた。今でも,歴史の深い場所や下町にも残っているが,現代都市においてはかなり絶望的である。ワンルーム・マンションのドアを開ければすぐメトロポリスというイメージは独身の若者には受けるかも知れないが,子供やご老人にとっては大変苦痛である。まず,住民が安心して歩いて行ける範囲で基本的な生活が足りるようにする必要がある。そして,住民がリラックスして語り合い,お互いにコミュニティーに対する帰属意識をもてるような環境のデザインが必要である。ここで建築家にできる仕事は,単体の敷地に建物を設計しながら,建物の集合としてのあり方が界隈性をかもしだすような働きかけである。具体的には,地域の中に一つ一つ丁寧に建物を埋め込んでゆき(インフィルし)地域全体の特性が活性化されるよう配慮していく必要があろう。代官山のヒルサイドテラスはかなり稀な条件のもとで実現したが,建物が地域に積極的に働きかけ,新たな界隈を発生させた好例として我々建築家に勇気を与える。日々のプロジェクトにおいても,周辺環境との対話について常に意識して考えてゆきたい。
2)街並みの連続性
街並みが連続することは,界隈性を高める意味では重要である。道空間は連続した快い街並みによって初めて充実したコミュニケーション空間となるからである。現在,岡山県高梁市で私の研究室が行なっている活動が最近一つの成果をあげた。虫食い状になった中心市街地の駐車場に「門」を建てて(写真),歴史的街並み(特に軒線)の連続性を回復したのである(資金は地主やJCの方々を説得して廻り,捻出した。)その効果は絶大で,他の住民の人々が街並みの重要さに気づいてくれ,その後も何軒かがこの活動に協力して頂けるようになった。
3)インフィルのシミュレーション
今,明治大学の大学院では,東京の典型的な5か所の地域(佃,谷中,神楽坂,渋谷,蒲田)を選び,各々の歴史的特性を調べた上で,どのようなインフィルの可能性があるかを具体的なプロジェクトを通して探っている。これらの成果をフィードバックすることで,より現実的に都市を再びアナログ化していく戦略を練ってゆきたい。
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