日建設計 杉浦利枝
首都ティンプーには,政府やオフィスに勤める一握りの給与所得者や商人等が暮らしていますが,一国の首都と思えぬ穏やかな街です。メインストリートには,1階に商店が入った,3〜4階建ての美しい装飾を施した伝統建築が立ち並びます。自動車交通の増加が著しいとはいうものの,信号はなく,(二つの交通量の多い交差点は,警察官が交通整理を行なう)ガソリンスタンドも二つで間に合っています。スーパーマーケットの類はなく,ブータン各地から村人が野菜や作物,工芸品などを売りにくる週末市場が,専ら食糧・日用品購入とおしゃべり好きブータン人のコミュニケーションの場となっているのです。
犬たちがひなたぼっこをし,子供達が遊び,そして人々はすれ違う人々と陽気に挨拶を交わす,といった光景が街のあちこちで見受けられ,週末には,弓の試合等の歓声が聞こえてきます。この穏やかな街の光景に,近隣の発展途上国とは異なる生活観を感じます。それは,このヒューマンスケールな都市の規模や,「ブータンらしさ」を失わずに独自の発展を目指す国の姿勢によるものだと思います。去年から国内初のテレビ放送が始まり,情報化も進んでいますが,新しいものを取り入れるだけではなく,処理設備のない化学物質の使用を制限するなど,「折り合い」を心得た発展を目指しています。
四半世紀前までは鎖国状態にあり,山脈に守られ暮らしてきた人々の生活は,今変化の時代を迎えており,この独自のサステイナブルな近代化は,その豊かな人間性や価値観,穏やかな生活を守るという課題を持っています。そして,いつか再び訪れたときに,この美しい街並みと,明るくクズザンポー!(こんにちは)と話しかけてくれる人々に出会えることは,この国を訪れた全ての人の願いでもあるのではないでしょうか。
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