都市デザインの話
銀座発: 「まち」の解体と再生


インターフェイス建築事務所  永松 曉


 いま,銀座の「まち」に建て替えの波が静かに進行しています。明治2年の「銀座」誕生以来130年,度重なる災禍と奇跡的な復興を遂げてきたこの「まち」にあって,震災後の耐震耐火建築物として70年余を生き抜いてきた建物が,いま建て替えの波に曝されています。
 昨年,私たち都市デザイン部会は「銀座の再発見」というタイトルでアーキテクツガーデン'99に参加しました。その背景には,日本の近代史とともに歩んできた「銀座」というひとつの典型を読み解くことによって,場所の特性を生かした「まちづくり」を市民と共に考える,ということがありました。
 それから一年「銀座」を読み解くためにリストアップした,14の界隈と27の建物のうち5件の建物が,すでに解体されたり,あるいは建て替え決定されました。
 いまなぜ「建て替え」なのか。そして「まちをつくる資源」として再生する手立てはないのか。そんな問いから,今年は「まちをつくる資源」というテーマで参加しました。詳細は別稿(都市デザイン部会H.P)でご紹介するとして,ここでは少し個人的な感想を述べておきたいと思います。

 建て替えには常に個別の事情がありますが,今回この地域に共通する事情としては「機能更新型高度利用地区計画+街並誘導型地区計画」の導入があるようです。  これは平成10年の「東京都高度利用地区指定方針及び指定基準の一部改正」を承けて,中央区が策定した地区計画で,都の改正概要によれば「容積率を緩和することにより,建築物の建て替え等を通じた都市機能の更新を的確に誘導する」とあります。
 また,中央区の「地区計画の手引き/銀座の新しいルール」の趣旨を要約すると,「銀座を代表する建築物の多くは,老朽化が進み既に更新の時期を迎えているが,その大半は昭和39年の容積率制度導入以前のもので,現行制度による建て替えでは従前の容積が確保できず,円滑に更新が進まない。そのため地区全体の機能更新や災害時の安全確保が難しい」(サブタイトル:にぎわいと風格の再生)とあります。
 住民の発意を前提とした制度であるという意味では,建物の老朽化を憂う地元と,防災対策を推進する行政が「建て替え促進」という点で一致した結果である,と言えるかも知れません。
 都市にはときとして計画的な更新が必要であるとする立場や,「住民の発意に基づいて,敷地の制限を,街区の制限に置き換えてゆく」といった制度の趣旨は理解できるとしても,はたして「銀座を代表する建築物」は「建て替え」以外に更新の方法はないのでしょうか。
 言うまでもなく「まち」の象徴とは「まち」そのものであって,長い時間のなかで形成されてきた人々の記憶の象徴です。それは一度失ってしまえば,自然環境以上に回復不能であることは,原風景を失った戦後ニッポンの「まち」を想い起こせば明らかです。
 その失った記憶を「新しさ」に置き換えて半世紀,フロー経済を生きてきた私たちは<経年変化=劣化=廃棄>という潜在意識の代償として,年間4億tにも及ぶ処理能力を超えた産業廃棄物を抱え込み,ストックの時代と言わる今日にあっても尚,減量することなく排出続けています。「まち」の象徴を解体することは,「まち」の記憶を解体するだけでなく,膨大な負の遺産を未来に残す結果となるのです。
 
 相変わらず急いでいるように思います。様々な界隈,様々な歴史からなる「銀座八町」を,ひとつのルールで更新しようとするところに無理があるように思います。「まちをつくる資源」としての価値を再評価し,場所の特性を生かした再生を考えること,そして,その過程で生成される「合意形成の仕組み」こそが,未来へ繋がる「まちづくり」だろうと考えます。<解体>を問うことはその第一歩と言えるかも知れません。そしてそういった再生の現場は,未来へ繋がる<建築家のフィールド>のひとつだろうと思います。

 

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