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二つのマンション紛争と都市計画
一級建築士事務所(有)初音すまい研究所
代表 手嶋尚人
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都心部で江戸の面影を色濃く遺す台東区谷中の町に続けざまに対極的な二つのマンション紛争が起こっている。
ライオンズガーデン谷中三崎坂の成功
平成10年9月谷中三崎坂という寺院の屋並みが連なる坂の中腹に9階建てのマンション計画が発表された。今まで谷中では外部業者による大規模なマンションはなく,黒船騒ぎとなったが,事業主「大京」の英断により
9階から6階(道路に面しては4階)へ計画変更され,意匠的にも谷中の雰囲気に溶け込むものとなった。
ここでの争点は谷中にふさわしいマンションヘの計画 の見直しであり,事業としても成立する妥協案を地域と 共に考えてもらうことだった。地域側も専門家を立て,提案型・協議型の交渉を行なった。「大京」も当時「高収益を上げることより品質の良い,地域と共生できるマンションを着実に提供することを企業の基盤としよう」という変革期にあり,谷中側の提案を飲むことができた。
完成後1ヶ月で43戸完売,入居者の8割が計画地の徒歩圏住民という結果となり,十分事業としても成功した。通常,地域で孤立しがちなマンション住民であるが,ここではマンション住民も地域と共生できる良い関係が予想される。そして,もう一つの成果は三崎坂に建築協定ができ,まちづくりへと展開したことである。
ホッとする町 谷中に轟音が
一方こうしたまちづくりの気運の高まるなか,平成11年12月,日本医科大学看護専門学校校舎の解体が轟音と共に始まり,第二の黒船来襲となった。
平成12年4月地上14階の「ルネ上野桜木マンション計画」が初めて近隣住民に知らされた。事業主からは 周辺環境との調和を最大限に考えた計画であると自信を持って提示されたが,近隣だけでなく谷中の多くの人々そして,寛永寺をはじめ谷中の諸寺院が,この計画の町
との景観上の不釣り合い,そして周辺環境への影響(交 通渋滞等)に対する配慮のなさに驚かされた。
「大京」の時と同じく提案型・協議型の交渉として行なってきたが,現在,強行着工そして販売広告開始とい う段階に至っており,住民と事業者の対立という悲しい
状況となっている。
なぜ同じ谷中で二つの違いが生じたのか。一番はマンション事業主の姿勢の違いである。事業主がもっとマンション事業の公共性を考え,一時的な営利に走るのではなく地域共生を求めたとき,紛争はなくなるだろう。それが事業主にとっても大局的に見れば利となると思うのだが。
なぜマンション紛争はおこったのか
*都市計画が住民にぜんぜん伝わっていない
双方とも,なぜここにこんなものが建てられるの?と いう疑問から始まった。都市計画等によって地域がどの ように位置づけされているか理解している住民はほとん
どいないのが実体だ。理解したとき三崎坂の場合では自 分たちの町のイメージは都市計画と違うということで建築協定へと展開した。それに事業主も乗ってくれた。
「ルネ上野桜木」の場合はもっと厄介だ。この計画地 は路線近隣商業地域と第一種住居地域に跨っているが,建築基準法上,一体敷地として扱われ,様々な恩恵を得られている。近商側に高い建物(8階ぐらい)が建つのは何となく住民は肌で感じている。しかし,一住側に何で14階が建てられるのか理解不能である。300%(実際の利用容積率は200%以下)の容積率に一住側の敷地だけで考えると500%近いボリュームが建つのである。都市計画の精神から言ってもおかしく,住民にとって,このマンションが合法と言われても……。
都市計画が住民に周知できていないことや建築基準法と都市計画の矛盾点がマンション紛争の種の一つになっていることを行政や関係専門家は認識すべきであろう。
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