都市デザインの話
都市づくりから変革を促す
      『新都建設』への期待


マトリックス建築・都市設計事務所 主宰  後閑淳一


21世紀に入った

 バブル崩壊より10年以上が経過するが,その間政治はもとより経済,文化,教育などあらゆる分野において行き詰まり現象が露呈してきている。国民皆が,今のままでは悪くなる一方であると感じているし,外国からは日本の崩壊が危惧されているという。都市においても東京一極集中現象は止まず,地方都市は中心市街地の衰退など,活力を失っている。
 私たちは今,国の将来に希望が持てるビジョンを求めている。そんな時に興味ある本に出会った。堺屋太一著『新都建設』である。約10年前に出版されているが,今でも新しい提案である。氏は新都建設の目標を「首都機能を移転して東京の過密を解消するための単なる建設プロジェクトでなく,日本の政治行政の体制を改め,真に豊かさを実感できる効率の良い自由経済と民主主義の社会を創る契機となることだ」と述べている。
 東京の一極中心の問題が提起されて久しく,その間多くの首都移転・改造に関する多くの提案がされてきたが,われわれ建築家も含めて国民がそれを現実問題として取り上げ,議論してきたことがなったのではないか。国会でも1990年に「国会移転決議」が可決されているが,そのまま瞬く間に10年が経ってしまっている。新都建設の提案は今まさに求められているビジョンとなり得るのではないか。東京には何でもある。驚きや発見や変化に富んだ世界一大きな街である。しかし極端な一極集中のため,地方の人は東京へ行かないと用事が足せないようになっている。その結果東京人は遠距離通勤や狭い家,高い物価などで豊かな生活をエンジョイしていない。一極集中体制を変えないと変革への展望は拓けてこないのである。
 氏は歴史的に見て日本に大改革が実現できたのは,@外国に屈した場合(第二次世界大戦)とA首都機能の体系的移転が行なわれた場合(平安→鎌倉→江戸→京都(明治維新)など)の二つしかない。そこで新都建設が体系的に行なわれれば日本の改革は可能であると述べ,現在までに提案されている各案を比較し,最も効率的,現実的な案として新都建設を提案している。(下表)

東京問題解決案とその費用・効果

  内容 費用と期間 地域構造上の効果 行政改革上の効果

東京を一極集中に耐える超巨大都市に改造する 数百兆円
50年以上
一極集中を激化,地価高騰を招く 官僚主導型が強化され,行政改革を困難にする

東京から首都機能を一括移転する新首都を造る 60兆円
25年
全国的な交通通信対策が変化し,刺激が大きい 行政改革効果は大きい



「しなやかで小さな政府」の政治行政機構を「新都」移転 9兆円
18年(他に地方対策費10兆円)
東京の過密防止と地方振興に適度な効果 行政改革効果は大きい


新都の概要

 新都には相互に関連した国家レベルでの政治と行政機能だけを集中的に移転し,最高裁と日銀は残し,東京を首都とする。そして新都建設を進めると同時に東京の再生と地方都市の自立的活性化を図る。政治行政の中心(新都)と経済活動の中心(東京)と二つの性格を持った核を作ることにより一極集中を改め,単眼から複眼の思考へと改革し,さらに多くの自立した都市の活性化を図るという計画である。
 新都は移転する政府関係機関など2万人を中心に外交,報道,情報関係,観光文化娯楽機能,および地域サービス機能など5万人,就業者合計7万人,人口20万人,面積5000ha,高速鉄道,高速道,国際空港,長距離通信など最新の施設を設置する。土地が安いため事業費が抑えられて,現代技術の粋を集めた理想的な都市づくりが可能となり,さらに東京や地方都市の再生が促され,日本中が活性化すると同時に政治・行政・教育などにも改革が及び,21世紀の新しい日本が再生する。
 この提案に対して,我がJIAも議論を深め,アピールし,実現を助けたいものである。

 

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