第21回 JIA関東甲信越支部 大学院修士設計展 2023

隣寺~僧侶と旅する歩く寺~

氏名
蓮溪芳仁
所属
東京藝術大学大学院
美術研究科 建築専攻
研究室
建築設計第三研究室 / 樫村芙実研究室
作品概要

寺はかつて、人を迎え入れる場であった。

寺院は仏法布教の場であると同時に、江戶時代には⺠衆の戶籍を管理し、時に学舎を開き、⼦どもの遊び場として、あるいは地域の話し合いの場として機能していた。
しかし明治以降、これら布教以外の役割は他の施設が担うよう整備が進み、寺院の「地域拠点」としての必要性は徐々に薄れていった。また、地⽅の過疎化により寺院の存在を物理的に⽀えている檀家の数も年々減少し、さらに近年では⽇本⼈の無宗教化により若者の寺離れが進み、仏教への理解も薄れている。

その結果、寺院数も年々減少しており、この傾向が続けば、⽇本から⼩さな寺院(所謂末寺)が消える未来もそう遠くはない。
ただ、⼈々が交流の場や拠り所を必要としない社会となったわけではない。物理的な場としてはカフェや居酒屋がそれを担い、近年増加しているSNSでのチャットやオンラインサロンも、かつての寺院の代役とも⾔える。

つまり、⼈々がそのような場を必要としているにも関わらず、寺院の存続が危ぶまれているのだ。そのような結果を招いた⼀つの要因として、寺院に関する「⽂化の継承」が⾏われていないことが挙げられる。

これは、寺院に関する「⽂化の継承」を⽬的として、寺院と関係を結ぶ可能性のある「⼈」、あるいは新たな寺院となる可能性のある「場」を求めて移動する空間装置「歩く寺」という、寺院の進む道の⼀つの提案である。

寺は、歩き出す。

作品イメージ

Profile

琵琶湖ほとりの寺に生まれ、野山を駆け回って育つ。
大学では、ヒトと共に移動する小さな建築空間の設計と実践から、巨大な空間世界とちっぽけな人間を繋ぐ方法について思考。
イラストから看板、家具、建築、イベント、パフォーマンスに至るまで分野の垣根を越えた活動を行う。