地域の歴史的資源である「ノコギリ屋根」を、今後どのように活用していくべきであろうか。本設計では、群馬県桐生市の象徴的な「ノコギリ屋根」を現代的な要求のもと活用しつつ「タイポロジーの保存」としての持続ではなく「タイポロジーの発展」としての持続を試みる。歴史が、その発生当時の状況において意味を持つだけではなく「同時代的な問題に対しても実用的な意味を持つ」という有意義な事態が生じるためには、現在の地点からその歴史的事物なり事象が有する実用性を見出す努力が欠かせない。だとするならばタイポロジーに対しても、そのような態度で取り組むことで新たなかたちをともなっていきながら未来に持続する有機的な歴史線が描けるのではないだろうか。
桐生市の伝建地区の中心的な位置に、地域交流を目的とした複合的な拠点を設計する。「ノコギリ屋根」の新たな類型の発生を促すような、既存の類型からの逸脱を図った新たな形態を伝建地区の風景に重ね合わせるように全体を計画していく。それは「地域の記憶」の中に「これからの記憶」を見出すことができるような場所となるだろう。人々と「ノコギリ屋根」を共有し、新たな方法で地域の歴史に繋いでいきたい。